パラスポーツ最高峰を目指す姿を追いかける最前線レポート--Next Stage--企画・取材:MA SPORTS

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2023年7月28日

三井不動産 2023 ワールド車いすラグビー アジア・オセアニア チャンピオンシップ

パリパラ出場権を獲得! 退任のオアーHCの花道を飾る

パリ2024パラリンピックの予選を兼ねた「三井不動産 2023 ワールド車いすラグビー アジア・オセアニア チャンピオンシップ(以下、AOC)」が6月29日から7月2日まで、東京体育館で開かれた。総当たり戦を2回行う予選リーグを全勝で勝ち上がった日本代表は、決勝でオーストラリア代表を55-44で下し、6大会連続のパラリンピック出場を決めた。団体競技では日本勢第1号となる。

パリ2024パラリンピック出場を決めた日本代表の選手、スタッフら

全勝で予選リーグ突破!

アジア・オセアニア地区からパリ2024パラリンピックの出場権「1枠」を決定する重要な大会。世界ランキング3位の日本、同2位のオーストラリア、同8位のニュージーランド、同15位の韓国が参加(途中棄権)した。

日本の最大のライバルは、昨年の世界選手権を制したオーストラリア。これまで幾度と対戦し、トップレベルでしのぎを削ってきた相手だ。予選リーグのオーストラリア戦は、2試合ともスタートにやや硬さが見られた日本。連携ミスからリズムをつかみ切れず、リードを許す展開が続いた。しかし、後半に入ると今井友明(1.0)や乗松聖矢(1.5)らローポインターが、世界的ハイポインターでオーストラリアの得点源であるライリー・バット(3.5)とクリス・ボンド(3.5)の動きを封じ、ターンオーバーを奪うなどして連続得点につなげ、いずれも逆転で勝利した。

“日本のラグビー”で宿敵に勝利!

パリ2024パラリンピックの出場切符は、決勝で勝ったチームのみが手にできる。この大一番で、ゲームメークをしたのは日本だった。第1ピリオド、島川慎一(3.0)が粘り強いディフェンスでボールを奪い、橋本勝也(3.5)につないで連続得点に成功。さらに、キャプテンの池透暢(3.0)が相手のインバウンドをカットしてすぐさまトライを決めるなどして得点を重ねた。

バットをマークする乗松(右)とボールを運ぶ池(中央)

後半も高い集中力を維持して攻めあがる日本。徐々に疲れが見え始めたオーストラリアに対して、日本は新しいラインナップを次々に投入し、何度もターンオーバーを奪っていく。ミドルポインターの羽賀理之(2.0)や中町俊耶(2.0)も攻守で活躍。終盤にはバットをベンチに下げさせ、有利な状況を保ったまま、最後まで自分たちのラグビーを貫いた。

大会の一週間前、ケビン・オアーヘッドコーチ(HC)が、日本と自宅があるアメリカを車いすで往復することが体力的に厳しくなったとして、このAOCを最後に退任することが発表された。「すごくショックで寂しいけれど、この大会はパリの出場権を獲ることに集中したい」と、話していた選手たちも試合後は想いがあふれ出した様子。オアーHCと涙の抱擁を交わし、ラストマッチの勝利をかみしめていた。

世界に通用する競技スタイルを構築したオアーHC

アメリカ人のオアーHCはアメリカ代表とカナダ代表の指揮を執ったあと、2017年に日本代表HCに就任。敵将だった時から「日本チームはパラリンピックで金メダルを獲る実力がある、と感じていた」といい、「周囲の人たちを尊重する日本人の人間性が素晴らしいと思った。そんな日本チームの指導をすることは夢のようだった」と、振り返る。選手一人ひとりに寄り添い、個性を輝かせるチームづくりを目指したオアーHCは、得点源となるハイポインターだけでなく、ミドルポインターやローポインターの重要性について説き、チーム力の底上げに取り組んだ。同時に若手選手の発掘・育成にも力を入れ、高校生の時に見出された橋本は、今や日本に欠かせないハイポインターに成長した。

オアーHCは大会後、声を詰まらせながら6年間を振り返った

2018年の世界選手権初制覇、昨年には初めての世界ランキング1位、金メダルを目指した東京2020パラリンピックと昨年の世界選手権は3位と、うれしさも悔しさも含めて多くの実績を積み重ねてきた。それらすべてが糧となり、オアーHCは「今、世界で最高のチームを作れることができた」と、胸を張る。

大会終了後、チームを代表してマイクを握ったキャプテンの池は、オアーHCをねぎらいながら、「ケビンとの最後のラグビーを体現したいと思って全力でプレーした。これから次の新しい日本を作って、ケビンからいただいたものをさらに発展させて、パリでの金メダルを目指して進んでいく」と力強く話し、オアーHCと固い握手を交わしていた。

なお、後任はロンドン2012とリオ2016パラリンピックに出場し、昨年度末で日本代表強化指定選手を引退した岸光太郎氏。「ケビンが築き上げた日本代表の戦略、熱い想いを継承し、その教えをベースに今まで以上に勝ちにこだわる強いチームへ革新していきたい」と、決意を示した。

(MA SPORTS)