パラスポーツ最高峰を目指す姿を追いかける最前線レポート--Next Stage--企画・取材:MA SPORTS

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2015年12月1日

藤田征樹選手(パラサイクリング)

「勝つという強い気持ちと、地道なトレーニングの積み重ねで
虹色のジャージをつかみ取りました」

2015年8月にスイス・ノットウィルで行われたパラサイクリングのロード世界選手権でロードレース(男子C3クラス)初優勝を飾った藤田征樹選手。世界チャンピオンのみ着ることができる虹色のジャージ「アルカンシェル」の重みを感じながら第一線を走り続ける先に、何を見ているのか────。

世界選手権での優勝、おめでとうございます。2009年のパラサイクリングトラック選手権での優勝以来、アルカンシェルを手にするのは2度目、ロードレースでは初めてですね。

競技を始めた当初はトラック競技に力を入れていたのですが、現時点で国際自転車競技連合(UCI)主催の国際主要レースは、トラックよりロードのほうが多いです。より多くの国際大会で戦うためにも、ロードで戦える必要があったため、ロンドンパラリンピック前からトレーニングの軸足を短距離系から中長距離系へとシフトしていきました。そうした成果が今回の優勝につながったと思っています。



これまでのレースと比べて、コンディションなどは良かったのでしょうか?

コンディションが特別に好調だったということではなく、ほぼいつもと同じでした。ただ、自己管理と地道にトレーニングを続けてきて、コンディションの変化が少なく、多少の波があっても安定した力を出せるようになってきています。それが世界選手権でも功を奏したのかもしれません。
それよりも大きかったのは、メンタル面でしょうか。これまでもロンドンパラリンピックやワールドカップで表彰台を獲得してきましたが、優勝することはできていませんでした。そこで今シーズンは「まず一勝」という目標を掲げ、実現するためにチャレンジしてきました。さすがにそれが世界選手権で実現するとは思っていなかったので、うれしいと同時に驚いているというのが正直なところです。



見事、優勝を飾ったロード世界選手権の走り

ロードレースは、1周7kmを8周回、計56kmのコースで争われましたが、残り2周のところでアタックを仕掛け、見事、逃げ切りました。

シンプルで視界が開けており、アタックを決めにくいコースで、序盤から何人かの選手が逃げを仕掛けようとしていたのですが、どれも不発に終わっていました。しかし、勝つためには早い段階でどこかで仕掛ける必要がありました。あと14kmとそれなりの距離が残っていましたが、単独でも逃げ切れる距離だと判断して、隙を見て思い切ってアタックしたのが勝ちにつながりました。



どのあたりで勝利を確信されましたか?

ゴールまで残り数キロで後続とのタイム差が1分を超え、逃切りがほぼ確実になって、「勝てる」という実感がわきました。それと、沿道から他国の選手やスタッフが「お前の勝ちだ」と声をかけてくれたのも印象的でした。これまで約9年間、パラサイクリングに取り組んできたのですが、なかなか結果が出ない時期なども乗り越えて、劇的なロードレースの優勝を手にすることができました。そうしたプロセスを世界のパラサイクリングの選手たちが評価してくれて、声をかけてもらえたのではないかと考えています。



アルカンシェルの着心地はいかがですか?

アルカンシェルは世界選手権で優勝した選手が、次回世界選手権まで該当する種目で着用することのできるジャージです。白地に5色の虹色が特徴で、健常者の世界選手権と全く同じデザイン、制度で実施されています。ロードレースでも取りたいという強い気持ちはありましたが、いざ手にしても、最初は実感がわきませんでした。ただ、取ったからには、それ相応の走りが求められると思っています。優勝の翌年に調子を落とす「アルカンシェルの呪い」なんていう言葉もあるぐらい、チャンピオンとして注目される中で、もう一回、勝利を目指すのは大変なことです。そういう意味でも、これから自分がどうなっていくのか、楽しみにしています。



10月に開催された国内初のUCI公認国際大会「ジャパンパラサイクリングカップ」

1年間に30数レースと、大会の出場数がほかの選手に比べて多いですね。

パラサイクリングの海外遠征や国内大会はもちろんですが、僕の場合、健常者の一般レースに参戦する数が多いです。両足義足で競技を行っていますが、競技中にその点を自分で気にすることはまずありません。自分の能力の幅を広げるためにも健常者とも勝負できる実力をつけ、実業団のレースなどにも積極的に参戦して、結果を残していく必要があります。
最近では一般のレースに参加すると、「義足の藤田が来てるじゃん」なんて注目してもらえるようになってきています。まずは競技者や自転車好きの人たちにパラサイクリングという競技があることをもっと知っていただきたいと思っているので、注目していただけることはとてもうれしいです。そこから自転車競技をやっていない人たちにも広がっていけばと思っています。さらに、パラサイクリングは特別なものではなく、自転車競技のひとつだと認識してもらえるといいと考えています。こんなことも、アルカンシェルを着る者がやらなければならないことのひとつだと感じています。



日本チームのエースとして、どんな役割が求められていると思いますか?

自転車競技は、苦しいことをコツコツ積み重ねていくしか、強くなる方法はありません。まずは、自分がやるべきことをしっかり行い、そして結果につなげる。これを身をもって示すことで、若い選手にいい影響を与えられたらと思っていますし、若い選手に目標とされる存在であり続けたいです。
また、僕のほかにも鹿沼由理恵・田中まいペアや石井雅史選手をはじめ、国際大会で結果を出している選手がいます。ライバルとして、チームメイトとして刺激し合っていきたいですね。



そうした積み重ねがリオパラリンピックへとつながっていきますね。

そうですね。僕自身は、自転車をより力強く走らせるためにパワーアップしていきたいと思っています。そのためには、義足も大切です。現在、ロンドンの後に作った義足を使っていますが、リオへ向けてより良いものを作るために、準備をしている最中です。日本チームは、スタッフも選手もいい雰囲気の中、みなリオへ向けて真剣に取り組んでいます。僕個人はもちろん、チームとしての今後も期待していただきたいと思います。


(MA SPORTS)

プロフィール

藤田征樹(ふじた まさき)
1985年、北海道生まれ。日立建機株式会社勤務。東海大学トライアスロン部時代、交通事故に遭い、両下肢下腿を切断。事故から2年後に義足でトライアスロン大会に出場し、見事完走。その後、パラサイクリングを知り、力試しのつもりで日本障害者自転車競技大会(ロードレース)に出場したことがきっかけで、本格的に自転車競技を始める。2008年北京パラリンピックで3個のメダル、2012年ロンドンパラリンピック(男子個人C3タイムトライアル)で銅メダルを獲得。170cm、64kg。好きな言葉は「淡々と」「着々と」。