パラスポーツ最高峰を目指す姿を追いかける最前線レポート--Next Stage--企画・取材:MA SPORTS

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2016年2月24日

廣瀬隆喜選手(ボッチャ)

「2~3手先の戦術を読み、その駆引きが勝敗を分ける究極の頭脳戦。
さらなるレベルアップに挑戦し、世界の頂点をとる」

重度脳性麻痺者もしくは同程度の四肢重度機能障がい者のために考案されたボッチャ。日本のエース・廣瀬隆喜選手は今、自身3度目となるパラリンピック出場に向けて強化を重ねている。金メダルを獲得した2015年の国際大会で得た成長と課題を振り返りながら、3月の世界選手権、そしてリオへの思いを語ってもらった。

廣瀬選手とボッチャとの出会いについて教えてください。

中学時代はビームライフルを3年間やり、高校では陸上競技に取り組んでいました。でも、タイムが伸び悩み、担任や陸上の先生に相談して、他のスポーツに挑戦してみることにしたんです。ボッチャはもともと学校のオリジナルルールで経験済み。それなら本格的にやってみようということで、高校3年の夏の日本選手権から大会に出るようになりました。そこからずっとボッチャ一筋ですね。



昨年末の日本選手権本大会では惜しくも2位。悔しさをバネに、世界選手権そしてリオでの活躍を誓う

ボッチャ競技の魅力、そしてスポーツとしての魅力は?

小さな子どもからお年寄りまで、そして障がいの有無を問わず、誰もが一緒にハンデなしにできるのが魅力です。ボッチャは、ジャックボール(目標球)と呼ばれる白いボールにいかに自分のボールを近づけるかを競うスポーツで、個人戦だと4エンド、チーム戦だと6エンドを戦います。場面にもよりますが、相手の2~3手先を読み、その駆け引きがモノを言う究極の頭脳戦です。たとえ前半で負けていても、相手の癖を見抜き、裏をいく緻密な作戦を展開していくと、後半で逆転することが十分可能。それはボッチャならではの醍醐味だと思いますし、決まったら超気持ちいい(笑)。



目的のボールにピンポイントで当てる技術には、観ているほうも思わず声が出るほど興奮します。

そうですよね。一度観戦したら、競技の奥深さがわかってより楽しめると思います。私は下投げのボールでダイレクトに目的に当てて、はじき出すパワー系が得意です。一挙逆転を狙う場面では、ロビングといって山なりのボールも展開します。ロビングはロンドンパラリンピック以降に挑戦し始めたんですが、昨年1月の日本選手権ではほぼ100%の確率で目的に当てることができました。海外で勝つためには、その精度をもっと上げて、さらに高い技を習得していかないと、と気合いを入れています。



世界のボッチャの傾向は?

北京パラリンピックの時はヨーロッパ勢が強かった印象です。ロンドンシーズンに入りかけた頃から、アジア勢がだんだん力をつけてきていて、現在、チームではタイがイギリスを抜いて世界ランキング1位(※)になっています。



そうした勢力図の中、2015年はボッチャ・ワールドオープン(ポーランド)で日本がチーム(BC1/2)で初めて金メダルを獲得しました。

その直前に香港で開催されたチームのアジア選手権で、銅メダルを獲得するいい流れがありました。それからトランジットのため羽田に戻り、すぐにポーランドに向かう強行スケジュールだったんですが、監督、コーチ、コンディショニングスタッフも含め、集中力を切らさず、チーム一丸になっていましたね。誰かがミスしても誰かがフォローするという雰囲気が最後まであった。リオパラリンピック出場権獲得のためにチームのランキングを上げておきたかったので、本当に良かったし、みんなに感謝ですね。



個人ではその香港とポーランド、その後の韓国での国際大会でもメダルを手にされました。この結果をご自身ではどう分析されていますか?

香港とポーランドでチームが結果を残したことが、個人戦にいい影響を与えたんだと思います。韓国の大会では残念ながらチームは4位で。他のクラスも調子が良くなかったので、絶対個人でメダルを取ろうと思っていました。その結果、予選リーグで負けた韓国の女子選手に決勝トーナメントの初戦でリベンジすることができ、さらにその後の中国の選手にはパワーに押されつつも、タイブレークで勝利して決勝にも行けました。ただ、決勝はその熱戦の影響もあったのか、途中からボールが突然寄らなくなってしまって。チャンスがあったのに優勝できなかったのは、まだまだ力が足りないということだと思います。



3月にはリオの個人戦の選考大会を兼ねた世界選手権が開催されます。

表彰台を目指しています。その結果のランキングが、パラリンピック本番のトーナメントの入り方に影響するので、現在の7位(※)より上げておきたいところです。それまでは、国内での合宿で自分の課題と向き合って、いい状態に仕上げていきたいです。昨年末の日本選手権本大会では杉村英孝選手に決勝で負けてしまいましたが、切磋琢磨できる選手の存在はとてもありがたい。チームの仲間として、個人のライバルとして、高めあっていきたいです。



最後にパラリンピックへの思いを聞かせてください。

もしリオの代表に決まったら、個人的には3度目のパラリンピック出場になります。チームではロンドンの7位、個人では北京の14位が最高なので、リオではどちらもメダルを取ることが目標です。加えて、2020年東京パラリンピックを見据えた戦い方をすることも重要だと考えています。どんどん目標を上げていき、出てきた課題を確実に修正し、次につなげる。一段ずつきっちりとレベルを上げて、世界の頂点に立つつもりです。


※世界ランキングは2016年2月19日現在

(MA SPORTS)

プロフィール

廣瀬隆喜(ひろせ たかゆき)
1984年、千葉県生まれ。市原ボッチャクラブに所属。クラスはBC2。先天性の脳性麻痺で、高校からボッチャを始める。2003年の日本選手権に初出場し3位、06年に初優勝。同大会ではBC2クラスで史上最多の6度の優勝を誇る。北京パラリンピックには主将として出場し、チーム10位、個人14位。ロンドン大会ではチーム7位、個人15位。2015年はボッチャ・ワールドオープンポーランド大会のチーム(BC1/2)で優勝、個人で銅メダル獲得。同ソウル大会個人で準優勝。好きな言葉は「努力」「感謝」。