パラスポーツ最高峰を目指す姿を追いかける最前線レポート--Next Stage--企画・取材:MA SPORTS

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2017年5月18日

森井大輝選手(アルペンスキー)

「滑走性の向上をさらに追求し、ピョンチャンではライバルたちが想像している以上の滑りを見せたい」

IPCアルペンスキーワールドカップ(W杯)男子座位で個人総合優勝を果たした森井大輝選手。2011-2012シーズン、2015-2016シーズンに続く3度目の栄光だ。チェアスキーの開発にも携わり、巧みなカービングターン技術で長きにわたって世界をリードする森井選手に、今シーズンのレースを振り返ってもらうと同時にピョンチャンパラリンピックへの意気込みを聞いた。

W杯白馬大会をきっかけに調子を上げた森井。最強のオールラウンダーとしてピョンチャンでは頂点を狙う

W杯の個人総合優勝おめでとうございます。改めて最強のオールラウンダーであることを証明されました。率直な感想を聞かせてください。

前半戦で苦しんだので感慨深いですね。シーズン当初は海外合宿中の雪不足や気候の問題などで、とくに急斜面でのトレーニング量が減ってしまいました。日本開催の白馬大会でも、その急斜面の処理が思うようにできず、初日の大回転は6位。おそらくこれまでのW杯のなかで転倒以外では一番悪い成績で、本当に悔しかったです。



そこから、翌日のスーパー大回転ではW杯初優勝を飾り、直後のW杯最終戦・韓国大会では高速系種目のダウンヒルで優勝しました。盛り返した要因は何だったのでしょうか?

まず、白馬には所属先のトヨタ自動車から100人近い人が応援に来てくれ、気持ちを切り替えることができました。“応援を力に変えることができる”ということを改めて感じましたね。また、韓国大会はピョンチャンパラリンピックの本番会場でしたが、人工降雪機の雪がベースで、おそらく下地が氷でザラメ雪になるだろうということを想定し、実は白馬大会からスキー板のチューンナップを変えていたんです。具体的には、スキー板のベース側のビベルにファイル(やすり)を今までよりも少し強めにあてました。これで操作性が向上し、僕の強みであるカービングターンがより正確に、自分の思い描いたようなラインがとれるようになったのだと思います。これまで「これが自分のエッジ」という自負があったので10年くらいは変えていませんでしたが、レースで勝つための決断をしました。



ザラメ雪と聞いて3年前のソチパラリンピックが思い出されます。各国の選手が雪質に苦戦していました。

そうですね。ソチは下地のないボコボコの最悪の雪質で、自分のレースのイメージができないほど苦しみました。ただ、条件は誰もが同じ。その経験から、ソチ以降はシーズン終わりを約1か月伸ばして、気温が上がる5月の連休明けまで滑るようになりました。こうした新たなチャレンジが形になったのかなと思います。



ハイレベルな技術が結集されたチェアスキーは、森井選手も開発に携われた日本製が世界を席巻していますね。

僕ら日本人選手がメーカーと二人三脚で開発したトリノモデルが世界中で使われています。トリノモデルは滑走中のターン前半、後半それぞれの場面で理想的な加圧を実現できる仕様ですが、当初はターンで切り返すと跳ねて板が雪面からはずれるような、いわゆる“じゃじゃ馬”で、乗りこなすのが大変でした。今回の韓国のコースに関して言えば、ソチやバンクーバーから比べるとコースの平均斜度が少し緩いので、マシンの特性である後半の加速感を活かしやすいと言えると思います。



現在のマシンの特徴は?

バンクーバー大会以降、フロントのリフトアップのアシスト機能を外すことで軽量化しました。また、今シーズンの高速系種目に関しては、空気の抵抗を減らす「カウル」を本格的に導入したのも勝因のひとつだと考えています。ソチ以降はカウルを付けた海外勢が力を伸ばしてきたので、その滑りを分析し、僕も装着したわけですが、「空気の抵抗がなくなった」と体感できるほど、滑走性が上がりました。



台頭してきた10代のユロン・カンプシャー(オランダ)ら若手選手にどんな刺激を受けていますか?

とくにユロンはスポンジのように新しい技術を吸い込んでいくので、僕の技術と彼の勢いで戦うことができるのはすごく面白いです。彼の滑りを見ることで僕のなかで化学変化が起きて、より新しい技術や新しいことにチャレンジする力を彼らが与えてくれていると思います。ただ、まだ僕の方が速いと思いますけどね。



ユロンもW杯総合2位のロマン・ラブル(オーストリア)も、「モリイのような滑りをしたい」と話しています。そうした勢力図のなかで、ピョンチャンパラリンピックに向けてさらにどんなことを修正していきますか?

カービングターンを世界で誰よりも早く僕が使えるようになって、次に板をずらすスキッドターンを追求して、スタートからゴールまで安定かつ速いタイムで滑る、それが僕の滑りだと思います。ただ、パラリンピックでは、彼らの想像の上を行く滑りをしなければ勝つことはできないと思っています。そのためには自分がどこまでリスクを負い、絶対的で爆発的な速さを生み出せるかがポイントになるでしょう。僕が唯一、手にしていないのがパラリンピックの金メダルです。これまでは条件に泣かされた部分もあるので、どんな状況でも自信を持って自分の滑りができる準備をして臨めば、おのずと結果はついてくると考えています。



森井選手の原動力は何ですか?

本当にスキーが好きで、楽しいんですよね。よく「第一人者」と表現してもらいますが、仲間やサポートしてくれた人たちと切り拓いてきた、という表現が正しいと思います。たしかにスタートバーを切るときは選手ひとりですが、その先はたくさんの方の力や技術があって、僕のタイムがある。そしてみなさんの応援が高いモチベーションを保つカンフル剤になっています。そうした周りの方たちに感謝し、成績を出して恩返ししたいですね。

(MA SPORTS)

プロフィール

森井 大輝(もりい たいき)
1980年、東京都あきる野市生まれ。トヨタ自動車所属。4歳でスキーを始める。高校2年の時のバイク事故で脊髄損傷を負い、車椅子に。病室で長野パラリンピックを観てチェアスキーの世界へ。ソルトレークシティ大会に初出場し、トリノ大会では大回転で銀メダルを獲得。バンクーバー大会では滑降で銀メダル、スーパー大回転で銅メダル、ソチパラリンピックではスーパー大回転で銀メダルを獲得している。大の車好きで、「将来的には、会社で車やモータースポーツの開発にも携われたら」と話す。好きな言葉は「初心忘るべからず」。