パラスポーツ最高峰を目指す姿を追いかける最前線レポート--Next Stage--企画・取材:MA SPORTS

<<一覧に戻る

2019年4月19日

上山友裕選手(アーチェリー)

「ファンと一緒に、満員の会場で金メダルを目指したい」

2018年は世界ランキングトーナメントドバイ大会とインドネシア2018アジアパラ競技大会のリカーブ男女混合戦(MIX)で、銀メダルを獲得したアーチェリーの上山友裕選手。個人の世界ランキングでも過去最高の8位まで上げるなど、結果を残した。そんな世界の舞台で存在感を高める上山選手に、その原動力となっているものや、東京2020パラリンピックへの意気込みを聞いた。

病気をされる前からアーチャーとして活躍されていた上山選手ですが、立位と車いすの上半身の動きはどう違うのですか?

まず、立位と座位では骨盤の位置が異なるので、目線と肩の位置も違ってきます。フォームは一から身に着けた感じです。大きく変えたのは弓の重さです。立っていると上から下に向かって弓を下ろしている感覚ですが、座わると目線が上がって顔が浮くので持ち上げ気味になるんです。僕はこの弓の位置がしっくりこなかったので、弓を38ポンドから46ポンドに増やしました(「ポンド」とは弓の力の強さの単位)。重くすることで矢がまっすぐ安定して飛ぶようになる分、より引く力が必要になるので、上半身はかなり鍛えました。いまは、自分のなかで重い方が安定するという感覚があるので、新たな挑戦として48ポンドまで上げようと考えています。今年6月の世界選手権(オランダ)に間にあえば、と思っています。



その世界選手権は、東京2020パラリンピック前の最後の大きな大会になります。どんな思いで臨みますか?

このタイミングで金メダルへの距離、自分の実力を把握したいですね。世界大会のメダルマッチは、他と比較にならないくらいの緊張感に包まれるんです。僕はあまり緊張しないタイプでむしろ注目を力に変えられる方なのに、メダルマッチで身体が動かず、見たことないような負け方をしたことがあります。今回は、とにかくメダルマッチに慣れるという経験をしておきたいですね。また、一度勝った選手にはなるべく勝ち続けて、相手が僕の名前を聞いて「ウエヤマか、嫌だな」とプレッシャーをかけられるような成績を残したいです。

インドネシア2018アジアパラ競技大会で試合に臨む上山選手


昨年のアジアパラ競技大会のリカーブMIX準決勝では、リオパラリンピック金メダルの中国ペアを破って決勝に進出されました。大きな自信になったのではないでしょうか?

そうですね。世界勢力図でいくと、イランが断トツで強くて、そのイランに勝てるのは中国ぐらい、という感じです。その中国に勝てたということは、世界で銀を獲ったのと同じこと。自信になりましたし、MIXの好成績が個人にも好影響を与えていると思います。世界選手権や東京パラでは、個人とMIXのダブルでメダル獲得を狙っています。



ご自身では、好調の理由をどう分析されていますか?

2014年から所属している三菱電機が、競技に専念できる環境を作ってくれています。誰よりも練習しているという自信が、試合での安定した成績につながっていると思っています。また、17年10月に自宅がある東大阪市にウィルチェアースポーツ専用の屋外施設が完成し、アーチェリーの練習レーンもあるんですよ。駐車場が練習レーンのすぐ後ろにあるので、車を停めて、トランクから弓を出せばすぐに打てるという状況なので最高です。練習日はほとんどここに通っています。



それは素晴らしい環境ですね。では、強化としてはどんな取り組みに挑戦されていますか?

実は今年4月から、末武寛基氏にパーソナルコーチについてもらうことになりました。彼は大学時代、健常のナショナルチームで世界選手権に出場した選手です。僕と彼は大学も学年も違うものの、当時からの知り合いで、アーチェリー仲間。2015年からは仕事をしながらパラのナショナルチームのコーチもしてもらっていて、アジアパラでメダルが獲れたのは、MIX戦の前日にペアを組んだ重定知佳選手と彼に相談し、不安を払拭できたことが大きかったと感じているんです。今年からは、重定選手も一緒に末武コーチの指導を継続的に受けられるようになるので、私たちにとって非常に心強く、これからが楽しみです。



来年に迫った東京2020パラリンピックへの想いを聞かせてください。

まずは本番までに、アーチェリーのファンを増やしたいと思っています。僕は全国大会では的を覗く単眼鏡を応援に来てくれた人に渡して、自分自身で解説もしながら、実際に的の様子を見てもらっているんです。ルールを覚えて、かつ選手を身近に感じれば、きっと面白いと思ってもらえるでしょう? リオパラでは会場が観客で埋まり、ブラジルの選手が出場すれば大声援が送られていました。もし、僕が東京パラに出場することになったら、その一体感を今度は自分が経験すると思っているので、力に変えるためにも、会場を満員にしたいと思っています。そして、目指すはもちろん金メダル。ぜひみなさんの応援の後押しをお願いします!


(MA SPORTS)

プロフィール

上山友裕(うえやま ともひろ)
1987年、大阪府東大阪市生まれ。三菱電機所属。同志社大でアーチェリーを始め、社会人1年目に両下肢機能障害を発症、パラアーチェリーの試合にも出場するようになった。日本オリンピック委員会が運営する「アスナビ制度」を利用して、2014年に三菱電機に入社。パラリンピック初出場のリオ大会では、リカーブ男子で7位に入賞した。全国身体障害者アーチェリー選手権大会は15年から17年まで3連覇中(18年は台風の影響のため中止)。2019年4月のワールドランキングトーナメントドバイ大会では優勝を果たした。東京2020パラリンピックでは個人とMIXで表彰台を狙う。