パラスポーツ最高峰を目指す姿を追いかける最前線レポート--Next Stage--企画・取材:MA SPORTS

<<一覧に戻る

2022年5月20日

小川智さん(味の素株式会社)

「アミノ酸のはたらきでコンディショニングをサポート」

生命の源となる「アミノ酸」を武器に、アスリートの日々のコンディションをサポートし、戦略的食事や食に対する意識改革を行う味の素(株)の「ビクトリープロジェクト®」。昨夏の東京2020パラリンピックや今冬の北京2022冬季パラリンピックでも製品サポートを実施し、日本代表選手団を支えた。ディレクターとしてプロジェクトに関わってきた小川智さんに、これまでの活動を振り返ってもらった。

パラリンピックでも選手や関係者が「ビクトリープロジェクト®」によるサポートを受けました。改めて、取り組みの内容を教えてください。

日本代表選手や候補選手を対象とした「食とアミノ酸」によるコンディショニングサポート活動が「ビクトリープロジェクト®」です。プロジェクトは2003年に発足し、オリンピックでは2004年のアテネ大会から、パラスポーツにおいては2016年のリオパラリンピックからサポートが始まりました。私たちヒトの身体の20%はたんぱく質で構成され、そのたんぱく質は20種類のアミノ酸からできています。つまり、アミノ酸は筋肉を作るたんぱく質の素となるものです。激しい運動によって筋肉が損傷すると身体のアミノ酸が消費され、しかも一部のアミノ酸は体内で生成できないため食事で摂取する必要があります。また、アミノ酸は胃腸のエネルギー源でもあり、消化吸収の促進も行います。そこで、アミノ酸を「正しく食べて、正しく補う」重要性を選手に理解してもらったうえで、大会では栄養補助食品やゼリー、スープといった補食を提供してきました。東京大会では、選手村日本代表選手団棟と味の素ナショナルトレーニングセンター(NTC)イーストの2カ所にブースを設け、選手が利用しやすい形にしました。

小川さんは「もっと多くの人にアミノ酸のはたらきを認知してもらい、ココロとカラダの問題解決に役立ててもらいたい」と話す



選手の間では、「勝ち飯®」も話題になっていたそうですね。

「勝ち飯®」は、「何のために食べるか」をベースに考える栄養プログラムです。ハードな運動時には、からだの中にダメージ蓄積しますが、そこでおすすめなのが、ダシ(うま味のアミノ酸)が効いた「エネルギー豚汁」。野菜もアミノ酸もエネルギーも摂れる超万能なメニューで、今冬の北京大会でも好評でした。実は、“この大会で勝ちたい”と目標がはっきりしている一方で、好きなものばかり食べるとか、過去はこうだったから私は大丈夫、という選手が案外多いんです。目標達成のために身体の状態を万全にするには、練習だけでなく、食事や補食、睡眠も重要になってきます。とくにパラアスリートは年齢層が高い傾向にあり、競技力が高くなるほど身体へのダメージは大きくなるので、理解促進のため東京大会の前には競技団体や選手向けに勉強会も開きました。



地元開催の東京大会のために、特別に準備したものはあったのでしょうか?

スポーツ選手の課題を解決するための商品として知られる「アミノバイタル®」は、アミノ酸の機能と選手のニーズを合わせながら、ロンドン大会から4年に一度、日本代表選手団専用製品の開発を続けています。今回は“東京スペシャル”として、目的に応じて「MOMENT」と「CONNECT」の2種類を用意しました。「MOMENT」は、その瞬間のために持てるパワーを引き出す独自組成のアミノ酸を配合しています。「CONNECT」はコラーゲンの成分を多く含んだ理想の動きを支えるコンディショニングアミノ酸を配合しているのが特徴です。



東京2020パラリンピックでも日本代表選手団をサポートした(小川さん提供)

パラアスリート向けの製品もあるのですか?

それはありませんね。オリンピックの選手に提供しているものと同じです。ただ、競技背景に特徴があって、先ほどパラアスリートの年齢の話をしましたが、オリンピックの選手が引退するような年齢で競技を始める人が少なくありません。加齢とともに筋力や消化力、吸収力は落ち、食べる量も減るため疲労の回復力が遅くなります。30代・40代・50代の選手がトップを目指し、ピークを作っていくのは想像以上に大変で、コンディションの維持には食事の回数を増やしたり、補食をとるなどさまざまな工夫を重ねる必要があると感じました。私たちの強みである「アミノ酸と食の融合」によって、選手の体調管理のお手伝いができればいいなと改めて思いましたね。



これまでの選手の反応はいかがですか?

好評価をいただいています。選手が製品をどう活用し、どんな実感を得たかなど、毎回ノートやアンケートに書いてもらっています。海外の大会では脂っこい食事に胃もたれして苦しむ選手がいたり、食あたりを避けるため生野菜やカットされた果物の摂取を禁止する競技団体があって、「『ビクトリープロジェクト®』ブースがあって助かった」「ダシ(うま味のアミノ酸)が効いたスープがあってホッとした」といったコメントもありました。こうした言葉をいただくだけで嬉しいですし、次にできることをもっと増やしていきたいという気持ちになりますね。

また、別の視点になりますが、東京大会で提供した2種類の「アミノバイタル®」“東京スペシャル”は、スティックの色は違いましたが、両商品とも同じ大きさの包材を使用していました。視覚障がいの選手が自分に必要な方を選んで手に取っていて、驚いたことがありました。どう判別しているのか尋ねると、商品を振って「音で違いがわかる」と。とても勉強になりましたね。選手サポートと言いつつ、こちらが学ぶことがたくさんあるので、自分が聞いた話で終わらせず、社内で共有するようにしています。



今後の展望について教えてください。

不足したアミノ酸は食事や補食で補う必要があるわけですが、サプリと混同されることも少なくありません。アミノ酸を「正しく食べて、正しく補う」ことの重要性をもっと浸透させたい。そうすれば、日本代表選手団はもっと強くなるし、日本人はもっと健康になると考えています。一般社会でもアミノ酸のはたらきがより認知され、世界の人々が「年齢を重ねても〇〇をしたい」という目標を達成できるように、引き続きサポートしていけたら嬉しいですね。

(MA SPORTS)

プロフィール

小川智さん
1966年、東京都生まれ。慶応大学商学部時代に味の素のマヨネーズ市場参入の授業に興味を持ち、1990年4月に入社。5年間の営業職を経て、ミャンマーやナイジェリアで海外事業を担当。帰国後に「アミノバイタル®」の事業部に異動となり、「ビクトリープロジェクト®」の中心メンバーとして2006年のトリノオリンピックに関わった。その後、再び海外に渡り、ベトナムでの事業を経て、再赴任したミャンマーでは現地で生産販売法人を立ち上げるなど精力的に活動。18年7月に帰国した後、数カ月後に迫ったインドネシア2018アジアパラ競技大会でパラアスリートをサポート。その経験を活かして、東京大会や北京大会でも選手やスタッフの栄養面を支えた。現在は、グローバルコミュニケーション部スポーツ栄養推進グループのシニアマネージャーを務める。