パラスポーツ最高峰を目指す姿を追いかける最前線レポート--Next Stage--企画・取材:MA SPORTS

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2016年5月24日

2016ITU世界パラトライアスロン横浜大会

リオ出場に向けてポイントを積み重ねる秦由加子が自己ベスト更新!

14日、横浜・山下公園周辺の特設周回コース(スイム0.75km、バイク20km、ラン5km)で開催された世界パラトライアスロン横浜大会。国内外から56人のトライアスリートが出場し、障がいにより分けられたPT1からPT5男女(PT3は男子のみ実施)の各クラスの優勝を争った。

リオパラリンピックから、男子ではPT1・PT2・PT4クラスが、女子はPT2・PT4・PT5クラスが正式競技として加わる。選手たちは、2015年7月1日から2016年6月30日まで開催される主要大会でポイントを積み重ね、そのランキングにより出場権を得る。今大会はリオのポイント対象大会ということで、世界の強豪が集結。日本選手も続々と自己ベストを更新するなど、ハイレベルなレースを展開した。

バイクで逃げる片大腿切断の秦由加子。リオではメダルを狙う

課題のランで女王にかわされるも
1年間の成長に手ごたえ

世界ランキング1位のシーリーと競い合った

現在、PT2(立位・膝上切断など)クラスの世界ランキング6位に位置する秦由加子(マーズフラッグ・稲毛インター)は、最もリオ出場に近い日本人選手だ。4月末に広島・廿日市で開催されたアジア選手権で優勝するなど、着実にポイントを積み重ねてきた。自身がポイント対象大会のラストレースと位置付けた今大会は、世界ランキング1位のアリサ・シーリー(米国)と2人のみの出場で、完走すれば高いポイントを獲得できる。だが、リオのメダルを見据える秦は、なんとしてでも優勝をもぎ取ろうと、女王相手に最後まで食らいついた。

「スイムで失敗したら勝負できない。波や目標物を確認しながら丁寧に泳ぎました」

「先行逃げ切り型」の秦は、得意のスイムをトップ通過。一方のシーリーはスイムを苦手としている。秦はスイムで2分以上つけたタイム差をバイクでもキープしたが、課題としているランの2周目で追い抜かれてしまう。終わってみれば3分以上の差をつけられ、レースを終えると「プレッシャーはあったが、勝ちたかった」と悔しさをにじませた。

それでもホームの声援を背に、記録は1時間26分56秒の自己ベスト。「すごく調子が上がっていて、前日もここでやめておこうと練習を終えたくらい」というコンディションでレースを迎えたことが良かったのだろう。「一時間半の壁をようやく切ることができて嬉しい」と充実の笑みを浮かべた。

なかでも成長を示したのは2種目目のバイク。昨年、練習中にバイクから落車し鎖骨を骨折をしたが、そこで技術面の見直しを図り、カーブの多い横浜のコースに対応する力をつけた。「同じコースを走ったことで成長を実感できた」と語り、収穫を得たようだ。

とはいえ、ウエットスーツや義足の着脱を行うトランジションではシーリーに約30秒の差を空けられた。「トランジションはレースを重ねるごとにうまくできている」と語る一方で「現在の義足だと、汗を拭いたり、ライナーを履き替えたりする行程は省けず、その用具なりの時間はどうしても必要になる。トランジションの速い海外選手の用具をチェックしている」と言い、リオまでに義足を変える可能性を示唆した。

「レースに出場しながら、地道にレベルアップしたい」と佐藤

視覚障がいクラスの優勝は中澤
東京を見据える選手たちも躍動

激戦の男子PT4(立位)クラスは、世界ランキング1位のステファン・ダニエル(カナダ)が58分56秒でフィニッシュして優勝。クロスカントリーとバイアスロンで冬季パラリンピックに出場している佐藤圭一(エイベックスホールディングス)も同クラスでリオパラリンピック出場を目指しており、今大会は1時間02分54秒と好タイムだったが、目標の表彰台に届かず7位に沈んだ。「スイムの出だしの部分で速い選手との差が出た。今日は波があったので、波に合ったテクニックが必要だが、そこがまだ追いついていない」と課題を述べた。

日本トライアスロン連合の富川理充パラリンピック対策チームリーダーは言う。
「日本選手もいいレースをしているが、全体的にタイムが上がっている。ウィークポイントをいかに埋められるかが重要で、佐藤はスイムであと1分縮めたい。強い海外選手は、ここぞという時の集中力が高い。日本選手もプレッシャーのかかる状態での練習を取り入れていく必要がある」

ロンドンパラリンピックの水泳日本代表で、男子PT1(座位)クラスの木村潤平(ABCキュービック)は4位。女子PT5(視覚障がい)クラスの山田敦子(アルケア)は3位でともにリオのポイントを伸ばせなかった。

リオでは実施されないクラスの選手たちも、東京を目指して力をつけてきている。男子PT5クラスは中澤隆(青山トライアスロン倶楽部、タカラエムシー、インターフィールド)が優勝。2位は、マラソンのトレーニングとして毎年参加している米岡聡(三井住友海上火災保険)で「ランでもっと稼ぎたがったが、今の実力通りの結果かな」と話し、汗をぬぐった。

男子PT2クラスの中山賢史朗(東京ガスパイプライン)は前回、表彰台ラインだった1時間20分を目標に掲げて出場。「ランにつながるいいリズムでバイクを漕げた」と納得の表情で、目標タイムを3分切る1時間17分58でフィニッシュ。だが「表彰台のタイムがどんどん上がっている。少しずつ詰めていくしかない」と力強く語った。

今大会はリオパラリンピックイヤーということもあり、海外選手も多く出場。ハイレベルなパフォーマンスに沿道から大きな拍手や声援が送られていた。

(MA SPORTS)