2016年パラ・パワーリフティングジャパンカップ
パワーリフターが集結! 鍛え抜かれた肉体で自分の限界に挑む
下肢障がいの選手たちによる「2016年パラ・パワーリフティングジャパンカップ」が26日、福岡県北九州市の小倉北体育館で行われた。IPC(国際パラリンピック委員会)公認大会で、記録はIPC世界ランキングに反映される。選手にとっては2020年東京パラリンピックの出場権を獲得する第一歩となり、初出場からベテランの選手、タイの招待選手まで30名以上が参加した。
陸上から転向して3年の西崎が136㎏の日本新をマーク。リオでは入賞が目標だ
リオ代表の西崎が日本記録を更新
パラリンピック正式競技であるパワーリフティングは、ベンチに横たわった状態でバーベルを押し上げるベンチプレスで勝敗を決める。障がいやその程度に関係なく、男女ともに各10階級の体重別で競技が行われる。
会場を沸かせたのは、9月のリオパラリンピック男子54㎏級日本代表の西崎哲男(乃村工藝社)だ。1回目の試技でスムーズに131㎏を持ち上げると、2本目でも高い集中力をキープ。自己ベストを1㎏上回る136㎏を成功させ、日本記録を更新した。「1㎏でも上を確実に取りにいく」と、3回目の試技で138㎏に挑戦。だが、バーをラックアップし、シャフトを胸の上に下ろす位置にわずかにズレが生じ、失敗に終わった。138㎏は6日前の練習で挙げており、この日目指していたのは140㎏から143㎏。それだけに、「日本新より、結果にこだわりあえて刻んだ138㎏をとれなかったことが残念」と悔しがる。
2020年の東京パラリンピック出場を目指してパラ陸上から転向し、3年。競技に専念できる環境も手に入れ、ぐんぐん記録を伸ばし、晴れてリオ代表に選ばれた。リオでは150㎏、8位入賞を目標に据える。本番まで所属会社のサポートを受けながら、国内での練習に専念するつもりだ。
東京パラリンピック出場を目指す中辻が日本記録を2度、塗り替えた
また、多くの選手が自己ベストを更新した。男子107㎏級の中辻克仁(個人)は175㎏、185㎏と順調に記録を伸ばし、第3試技で日本新の191㎏をマーク。4回目となる特別試技では192㎏を挙げ、さらに日本記録を更新。高い集中力と存在感を見せつけた。72㎏級は、佐野義貴(アクテリオンファーマシューティカルズジャパン)が、自己ベストを3㎏も上回る147㎏を挙げて、見事に日本記録を塗り替えた。また、2010年バンクーバー冬季パラリンピックでアイススレッジホッケー日本代表として銀メダルを獲得している馬島誠(個人)が97㎏級に出場し、2回目の試技で141㎏の日本新記録を樹立。3回目、さらに特別試技でも146㎏に挑戦したが、いずれも持ち上げることができず失敗。だが、果敢なチャレンジに、会場の仲間たちからは大きな歓声と拍手が送られた。
88㎏級のリオパラリンピック日本代表の大堂秀樹(コカ・コーライーストジャパン)は、ケガをしていた肩の治り具合を見ながらのエントリー。予定していた180㎏に成功し、「焦りはない。パラリンピックは3度目なので期待がかかっていると思うが、自分のやれることを精一杯やる」と話した。
女子45㎏級は上半身にも障がいを持つ小林が優勝
女子を牽引する小林は、大会ベストリフターに選出された
日本女子の第一人者、45㎏級の小林浩美(個人)は63㎏を挙げて優勝した。14年インチョンアジアパラ競技大会銅メダリストの小林は、手足の末端神経と筋肉が徐々に失われていく難病を患い、上半身だけでバーベルを持ち上げるこの世界において、「世界でも類を見ない上半身にも障がいがある選手」(小林)だ。握力は右が5で、左は0だといい、バーは握るというより指が広がらないように掌にのせるイメージで試技に臨む。バーベルを持ち上げる時間は3秒程度。その一瞬のために、身体の状態に向き合い、技術に工夫を凝らし、日々鍛錬を積み重ねる。「ものすごく奥の深いスポーツ。そこが面白いからやめられない」と笑顔を見せる小林。「これからも一つひとつの大会をこなし、課題に取り組んでいく」と前を向いた。
また、カヌー選手でもある中嶋明子(個人)が45㎏級に、女子アイススレッジホッケープレーヤーでもある山本恵理(日本財団パラリンピックサポートセンター)が55㎏級にそれぞれ初出場。中嶋は40㎏に挑戦するが成功ならず。山本は2度37㎏に失敗するが、第3試技で40㎏を持ち上げ、記録を残した。
ベンチプレスは、パラアスリートが健常者の大会で勝つこともあり、障がい者が健常者の記録を上回ることが可能な数少ない競技として、パラリンピックでは人気競技のひとつになっている。鍛え抜かれた肉体はもちろん、それを象徴する選手の強い精神力は実に見ごたえがある。リオではぜひ、パワーリフティングにも注目してほしい。
(MA SPORTS)