パラスポーツ最高峰を目指す姿を追いかける最前線レポート--Next Stage--企画・取材:MA SPORTS

<<一覧に戻る

2016年8月11日

平成28年度車いすフェンシング日本選手権大会

フルーレ男子の部で安直樹が優勝! 女子は櫻井杏理が圧巻V

会場の中央で行われた男子の決勝戦。緊張感のある試合を多くの来場者が見守った

国内で試合経験を積める数少ないチャンス。東京を目指す選手たちが活躍

7日、京都駅近くのホテル、エルイン京都で「平成28年度車いすフェンシング日本選手権大会」が開催された。日本車いすフェンシング協会がNPO法人化して初めての大会。インチョン2014アジアパラ競技大会日本代表の藤田道宣、2015年にハンガリーで開催された世界選手権の日本代表・櫻井杏理ら世界を舞台に活躍するトップ選手から、車いすフェンシングを始めたばかりの選手まで男女合わせて13人が出場。男女別に個人戦の予選とトーナメントを戦った。

今大会は、胴体への「突き」だけが得点になるフルーレ種目のみの開催。障がい別のクラス分けは行わないオープン競技ながらも、日本選手権大会としては10年以上ぶりの大会で、選手にとっては貴重な実践の場。試合に向かうコンディションづくり、緊張感のある中、観客の前で剣を振ることなど、あらゆる経験が新人フェンサーたちの糧になる。日本車いすフェンシング協会の小松真一会長は「2020年東京パラリンピックに向けて、この大会が車いすフェンシングをやりたい選手たちのモチベーションになるといい」と語っていた。

スピードで圧倒した女子の櫻井

女子の部は、世界で戦う櫻井が圧巻

まず初めに4人出場の女子の部がスタート。総当たりで行われた試合は、東京パラリンピックを目指す櫻井が他を寄せ付けずに全勝し、圧倒的な強さを見せた。見据えるのはあくまでも世界だが、「緊張感ある中、国内で大会形式の試合できること少なく、いい機会になった。これまでも試合はあったが、出場者は5、6人程度だったので……規模が大きくなってきた」と実感を込めて語った。

櫻井を除く3人は、車いすフェンシングを始めたばかりだ。北海道から参加した森由起恵は、オリンピックの太田雄貴のイメージが強いフェンシングに憧れ、昨年から剣を握る。「体が小さくてもしっかり練習すれば強くなれると誘われ、この競技にチャレンジすることにした。今回は初めての大会で緊張したけど、いい経験になった」と充実感をにじませた。

手にも障がいがある藤田(右)と脇村太の対戦

男子の部は9人が出場し、日本一の座を争奪

9人が出場した男子の部には、女子の櫻井もエントリーし、2つの組に分かれて総当たりの予選を行った。出場者のうち上位80パーセントに当たる8人が決勝トーナメントへ進出。15点先取で試合を決める決勝トーナメントは、点を取られたら取り返す白熱の展開も見られた。

決勝は、昨年12月に東京で行われたオープン大会で優勝した安直樹と、競技歴3年目の加納慎太郎の対戦に。来場者の視線を集めたこの一戦は、3点を先取した安が気迫で攻め続け、落ち着いた試合運びで点差を広げていく。「相手を一桁得点で抑えると決めていた」という安がそのまま得点を重ね、15-7で優勝を飾った。

試合後、「大会なのでより結果が重視される。そういう意味で目標はクリアしたが、内容はひどいもの。絶対勝たなくてはいけなかったので、力が入ってしまった。普段練習している振り込みやクーペなどの技が試せず、自分はまだまだだと感じる」と反省の弁を述べた安。昨年3月に車椅子バスケットボールからフェンシングに転向し、東京パラリンピックを見据えて強化を図る。「バスケのときは、全く意識していなかった骨盤の位置などを考えて競技をするようになった」と変化した強化ポイントを口にし、さらなるレベルアップを誓った。

準優勝の加納も、「内容が良くなかった。試合に向けた体調管理などの課題を次に生かしたい」と反省した。毎年、継続して開催されることが期待される今大会。次回、選手たちがどんな姿で大会に戻ってくるか楽しみだ。

競技人口増加と抱える課題

実は、2年前まで2人と少なかった車いすフェンシング人口は、東京パラリンピック開催決定を受け、今では40人まで増加したという。JPCの発掘事業や日本車いすフェンシング協会の普及イベントの成果だ。だが、日本選手はリオパラリンピックの出場権をつかむことができず、強化の面で深刻な状況にある。今回、特別参加した男子の部でベスト4に食い込んだ櫻井は「このスポーツの勝利の決め手は、やはりメンタル。技術はもちろん(日本にトップ選手がいない)女子選手の駆け引きなどをもっと学ばないと、とても東京には間に合わない」と焦りを口にする。

ゲストとして会場を訪れていたシドニー、アテネ、北京パラリンピック日本代表の久川豊昌氏も「競技人口は増えているが、車いす選手を教えられるコーチ、そして練習場所も少ない」と強化が抱える問題に言及した。この10月から、香港の車いすフェンシング金メダリスト、フン・イン・キー氏が来日することが決まっている。自国開催のパラリンピックまで時間は限られているが、日本の車いすフェンサーたちの奮起に期待したい。

(MA SPORTS)