パラスポーツ最高峰を目指す姿を追いかける最前線レポート--Next Stage--企画・取材:MA SPORTS

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2016年10月6日

第6回日本アンプティサッカー選手権大会

“伝道師”エンヒッキの3発でFCアウボラーダが王座奪還!

片足切断のプレーヤーが、クラッチと呼ばれる松葉杖を使ってプレーするアンプティサッカー。その第6回日本選手権が10月1日から2日間にわたって、富士通スタジアム川崎で開催された。

全国の9つの登録チームが一部合同となり、6チームで熱戦を展開。1日目に2グループに分かれてリーグ戦を行い、2日目に上位チームによるトーナメントを行った。決勝はFCアウボラーダ(東京)が延長の末、FC九州バイラオールを3-1で下し、2年ぶりの日本一に輝いた。

華麗なプレーで観客を魅了したエンヒッキ・松茂良・ジアスがMVPに輝いた

FCアウボラーダが
FC九州バイラオールの2連覇阻む

3年連続同じカードになった決勝は、まさに死闘だった。昨年はFC九州バイラオールが、一昨年はFCアウボラーダが優勝している。どちらのチームもこの一戦にかける思いは強く、緊迫した雰囲気の中でキックオフを迎えた。

ゴールキーパーは上肢切断の選手が行う

前半は、攻撃力のあるFC九州バイラオールがゴールに迫ろうとするが、FCアウボラーダも体を張った守備で応戦する。そんななか、一瞬のスキを突いたFC九州バイラオールは、前線のFW野間口圭介につないで先制点を挙げた。

だが、FCアウボラーダも負けてはいられない。日本代表としても活躍するストライカー、エンヒッキ・松茂良・ジアスのフリーキックなどで再三チャンスメイク。徹底してマークされるエンヒッキが守備をかわしていく姿に客席から歓声が上がり、次第に会場はFCアウボラーダのホームと化していく。
スタンドの声援を力に変えたエンヒッキがスピードと華麗なテクニックを見せつけ、後半17分、ゴール前のこぼれ球を押し込む同点弾。前後半60分を終えて1-1となり、決着は10分ハーフの延長戦に持ち込まれた。

延長も、互いに譲らない攻防が続く。FC九州バイラオールは、今大会7得点のエース萱島比呂がドリブルで攻め上がり、二枚看板のもうひとりである星川誠に絶妙なクロスを入れる得意のパターンでシュートに持ち込む。一方のFCアウボラーダも、中盤の細谷通からエンヒッキに縦パスを繰り出したり、相手を引き付けたエンヒッキがゴール前にパスを送るなどして攻撃を続ける。しかし、両者ともに延長の疲れで足もクラッチも思うように動かせず、シュートを決めきれない。

その後、試合が動いたのは、延長後半3分。エンヒッキのコーナーキックがゴール前で相手選手に当たり、FC九州バイラオールのオウンゴールに。そして、残り2分を切ったところでFCアウボラーダのダメ押し弾が決まる。エンヒッキが相手ディフェンダーとの駆け引きを制してゴールネットを揺らした。

試合終了のホイッスルが鳴ると、エンヒッキがクラッチを天高くつき上げた。FCアウボラーダが昨年の雪辱を果たし、日本一を奪還した瞬間だった。

各チームのレベルが向上
サッカー経験者も存在感

試合後のインタビューでも興奮は続く。「延長は全身がつっていて。歩けなくてどうしようと思ったけど、自分にボールが来たら、それを一瞬忘れて集中してプレーすることができた。それに、スタンドの『おー』という歓声がワンプレーワンプレーで聞こえて、テンションを上げてくれました」。MVPも受賞したエンヒッキは、「狙っていたのでうれしい」と笑みを見せた。

エンヒッキは、この競技の元ブラジル代表で日系3世。2008年、彼が就職で来日したことをきっかけに、日本国内でアンプティサッカーが始まり、2010年4月に国内初のクラブチームが発足した。現在、競技人口は約80人。“伝道師”の彼は、第6回の日本選手権を終え、「最初は選手がいなかったので、競技自体の広がりがうれしい。どのチームも、トラップ、フェイント、ドリブルなど細かい技術がレベルアップしている。障がい者サッカーの中で普通のサッカーに一番近いアンプティサッカーが、この調子で広がっていくといい」と期待を込めた。

一方で王座を奪われたFC九州バイラオールの星川は、来年への課題として「新しい人材の発掘と若手の育成」を挙げる。

古城(左)や星川(右)らサッカー経験者のプレーが光った

また、4位だった、AFC Bumblebee千葉・Asilsfida北海道AFCのエースストライカー古城暁博は、「自分やサポートしてくれるサッカー経験者が、チームに知識を吹き込み、簡単なパスやボールをもらった時の動きを練習していかなければ優勝はできない」とし、個人としては「シュート精度を高め、どこからでもシュートが枠に入る怖い存在になることで、攻撃パターンを増やしたい」と話し、さらなるレベルアップを誓った。

ところで、今大会はパラスポーツ体験イベントなども行われ、多くの観客が観戦に訪れた。閉会式であいさつに立った日本アンプティサッカー協会のセルジオ越後最高顧問は、「もっと大きな夢を見てホームを満員にしましょう」と呼びかけた。

決勝戦を観戦した日本障がい者サッカー連盟(JIFF)の北澤豪会長は、「試合が終わった後、サポーターがずっと拍手を送ってくれた。それだけ選手たちが素晴らしい試合をしたということ」とスピーチし、最後まで走り抜いた選手を高く評価し、サポーターにも感謝した。

(MA SPORTS)