パラスポーツ最高峰を目指す姿を追いかける最前線レポート--Next Stage--企画・取材:MA SPORTS

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2019年11月13日

第32回全日本障害者ライフル射撃競技選手権大会

ベテランからホープまで、国内トップクラスの選手が集結!

「第32回全日本障害者ライフル射撃競技選手権大会」が11月9日から2日間にわたり、千葉県総合スポーツセンター射撃場で開催された。10月の世界選手権(オーストラリア)で条件を満たし、東京2020パラリンピック出場が内定した水田光夏(桜美林大)ら、国内トップレベルの選手が集結し、熱戦を繰り広げた。

50mライフル伏射混合SH1を制した渡邊裕介。好調を維持し、パラ出場枠獲得を目指す

渡邊がハプニングに動じず日本新でV

右腕義手のシューター・渡邊裕介(渡辺石灰)は、得意の50mライフル伏射混合SH1で614.8点の日本新記録で優勝を果たした。本戦では、10発(10.9点が満点)を1シリーズとして計6回、合計60発を撃つ。序盤から10点台後半をマークするなど順調だったが、30発目でまさかの「6.3点」を出した。「弾か何かの不具合だったのか、練習でも経験したことがない点数」だったが、流れを切りたくないと気持ちを切り替え、見事に立て直した。

パラリンピック出場枠獲得を狙って臨んだ世界選手権では34位と、失意の結果に終わった。気負いすぎたことが原因と反省し、今大会は「結果を求めずに、一発ずつ丁寧に撃つことを心掛けた」。その結果、納得いくパフォーマンスにつながり、「少し安心した」と渡邊は笑顔を見せる。残る出場枠獲得機会は、来年5月のワールドカップペルー大会のみ。「ここで今日のような射撃ができれば、(内定に)手が届く。自信を持って臨みたい」と、ラストチャンスに向けて意気込みを語った。

佐々木大輔(モルガン・スタンレー・グループ)は、10mエアライフル伏射混合SH1を制した。渡邊同様に内定に近い位置につける実力者。今大会は報道陣の多さもあり、「周りが気になってしまった」と佐々木。「しっかりイメージトレーニングをして次の試合に挑みたい」と話し、前を向いた。

東京パラ内定第1号の水田光夏。今大会もその実力をしっかりと発揮した

東京パラ出場内定の水田が初優勝

水田は10mエアライフル伏射混合SH2に出場し、安定したパフォーマンスで初優勝を飾った。本戦では633.3点をマークし、自己ベストを更新。「毎回、0.1点でも記録を上回ることが目標」としており、「ホッとした」と喜んだ。

クラシックバレエやスキーに取り組むなど、活発な少女時代を送っていたが、中学2年の時に手足の筋力や感覚が低下していく神経難病のシャルコー・マリー・トゥース病を発症。高校2年で射撃に出会い、ビームライフル(光線銃)をスタート。18歳でライフル銃の所持許可を得て、2017年からエアライフルに転向した。握力は右手がゼロで、左手は4.5キロ。「射撃は動きのないスポーツだから、逆に自分に合っているのかも。それにバレエで舞台に慣れていたからか、大会でも緊張はあまりしないタイプなんです」と、笑顔を見せる。

世界選手権では24位ながら、この大会までにパラリンピック出場枠を獲得している選手を除いた中で女子の最上位となり、日本代表の内定第1号となった。本番に向けて、「ひとつずつ課題を克服していきたい」と語る22歳。さらなる飛躍に注目したい。

また、同種目では車いすテニスのクアードクラスから競技転向した古賀貴裕(ヤフー)が2位に入った。古賀は本戦で5番手だったものの、ファイナルでは高い集中力を見せて水田と競い合った。「余計なことを考えずにできた。これからも少しずつレベルを上げていきたい」と話していた。

昨年に続き、国内チャンピオンの座についたピストルの山内裕貴

ピストルのエース・山内「東京パラ出場が目標」

山内裕貴(電通デジタル)は、10mエアピストル男子SH1で551点をマークし、優勝した。中盤の4シリーズで86点とスコアを落としたが、集中しなおし、乗り切った。山口県出身の山内は、17歳の時にバイク事故で右腕の機能を失った。祖父が猟友会に所属していたことから銃を持つ姿に憧れと興味を持ち、3年前に本格的に競技を始めた。

世界選手権では、555点で21位。557点を出していればパラリンピック出場枠獲得ラインに届いていたといい、この「2点差」の悔しさを晴らすべく、ラストチャンスとなるワールドカップペルー大会に全力を注ぐつもりだ。「東京パラ出場をずっと目標にしてきた。ペルーで記録を狙いに行く」。ピストルのエースはそう言い切り、大舞台に照準を合わせていく。

(MA SPORTS)