パラスポーツ最高峰を目指す姿を追いかける最前線レポート--Next Stage--企画・取材:MA SPORTS

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2020年9月16日

令和2年日本パラカヌー選手権大会
兼 2021パラカヌー海外派遣選手一次選考会

今季初の公式戦で今井が2種目制覇!

200mのスプリントタイムを競うパラカヌーの日本選手権が13日、石川県小松市の木場潟カヌー競技場で開催された。新型コロナウイルスの影響で多くの公式戦が中止になり、日本選手権は今季最初で最後の大会。当日は朝から断続的に雨が降り、横風が吹き荒れる悪天候となったが、トレーニングを続けてきた選手たちは力強いパドルさばきを見せた。

2種目で頂点に立った今井航一。来年5月にハンガリーで開催されるワールドカップの代表入りに前進した

自宅トレーニングを結果につなげた今井

男子はヴァー(VL3)を制した今井航一(コロプラ)が、続くカヤックシングル(KL3)でも勝利し、2種目で優勝した。カヤックシングルでは波を考慮して慎重なスタートを切り、最後の50mほどで先頭を行く小山真(埼玉県カヌー協会)を一気に抜き去った。「小山さんの姿が視界に入っていたけれど、慌てず切り替えたのが良かった」と語り、2冠に笑顔を見せた。

今井は2013年、左脚に悪性肉腫を発症し、太ももから切断した。健康管理のため始めた水泳では50m自由形で全国大会での優勝経験がある。その後、妻がカヌー経験者だった縁で地元・香川県のクラブで体験し、17年から競技をスタート。デビュー戦の18年の日本選手権は強風のため中止となったが、昨年はその年の1月に始めたばかりのヴァーで見事に優勝。今年は自宅のエルゴマシーンでトレーニングを継続して漕ぎの感覚を維持し、見事結果につなげた。片脚切断の今井は、「カヤックではバランスは保ちにくいが、アウトリガーがついたヴァーは安定性が高い」とし、「香川はカヌーが盛んで、強い人がたくさんいる。アドバイスをもらいながら、東京パラリンピックに向けては、このヴァーに集中していこうと思う」と力強く話した。

コロナ禍での大会開催、辰己は「ありがたい」と感謝

男子カヤックシングル(KL2)で優勝した辰己博実が存在感を見せた

男子カヤックシングル(KL2)は、辰己博実(テス・エンジニアリング)が昨年に続いて頂点に立った。大会前のタイムトライアルではベストタイムの46秒をマーク。ただ、この日はうねる波と風に苦戦して57秒071とタイムが伸びず、「漕ぎ切れなかった。これからの課題」と振り返った。自粛期間中は「やれるだけやろう」と、自宅でのウエイトトレーニングで汗を流した。「他競技でも大会が中止になっており、選手のモチベーション維持が難しいと思う。そんななか今大会が開催されることが決まり、ありがたいと思ったし、集中して臨むことができた」と話し、関係者の尽力に感謝の気持ちを述べた。

KL1の高木裕太(インフォニオンテクノロジーズジャパン)は、波でバランスを崩してタイムをロス。7月の合宿で58秒台を出すなど好調だっただけに、「今日のコンディションに対応できなかった」と悔しがる。「フィジカルとテクニックをもう一度見直し、ひと漕ぎで進む距離を伸ばしていきたい」と話し、前を向いた。

悪天候のなか、56秒台の好記録で加治が存在感

女子カヤックシングル(KL3)を好タイムで制した加治良美

東京パラリンピック出場を目指す加治良美(ネッツトヨタ名古屋)は、女子カヤックシングル(KL3)で56秒255の好記録で優勝。水をうまく掴み、スタートから一気に前に出ると、2位に大差をつけてフィニッシュした。元小学校教員で、競技力向上のため一昨年、転職した加治。パラリンピックでの表彰台を目標に、これからも競技に打ち込んでいく。

また、東京パラリンピックの代表に内定している瀬立モニカ(江東区カヌー協会)はKL1クラスに出場し、1分05秒069でゴールした。レース後、一週間前の練習中に右側の肋軟骨を疲労骨折していたと明かした瀬立。全治一カ月のケガだったが、「本来ならこの9月にパラリンピックだった。そこに向けて練習してきたので、いまできることを最大限やろう」と、痛み止めとテーピングを施して出場した。練習では今大会の目標に据えていた55秒台を出していただけに悔しさもにじむが、「まずはケガを治して、オフの間に持久力を鍛えたい」と話し、一年後に向けて気持ちを切り替えていた。

(MA SPORTS)