パラスポーツ最高峰を目指す姿を追いかける最前線レポート--Next Stage--企画・取材:MA SPORTS

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2020年12月2日

第4回全日本パラ馬術大会

東京パラ本番会場で、トップ選手が人馬一体の演技を披露

人馬一体となって演技の美しさや正確さを競う「第4回全日本パラ馬術大会」が11月27日から3日間の日程で、東京・世田谷区の馬事公苑で開催された。障がいの内容や程度により5つのグレード(クラス)があり、規定演技を行う「チームテスト」と「インディビジュアルテスト」、楽曲に合わせて演技を組み合わせる「フリースタイルテスト」が実施された。

3種目で好パフォーマンスを披露した高嶋&ケネディ号

元JRA騎手の高嶋が3種目制覇

グレードⅣは、高嶋活士(ドレッサージュ・ステーブル・テルイ/コカ・コーラボトラーズジャパンベネフィット)&ケネディ号が3種目で優勝した。インディビジュアルテストでは、演技中に強風で馬場の柵(埒)が倒れるなどのハプニングがあったものの、中断せずにやり遂げた。「ケネディ号が派手には驚かず収まってくれた。無事に終われて安心した」と、演技後は笑顔でケネディ号をねぎらった。

元JRA(日本中央競馬会)騎手の高嶋は2013年に落馬事故で右半身に麻痺が残り、15年に騎手を引退。パラ馬術の道へ進んだ。騎手時代と同様に馬との信頼関係を構築し、実績を積んできた。来夏のパラリンピック出場を目指しており、「これまでと変わらず、ケネディとのコンビネーションを高めていく」と、さらなる飛躍を誓っていた。

グレードⅤに唯一エントリーした石井直美(東京障害者馬術協会/サンセイランディック)は、右上腕切断のため左手のみで手綱を操り、新コンビのデフュアステイネルス号と好パフォーマンスを披露した。また、もっとも障がいが重いグレードⅠは、アテネパラリンピック日本代表の鎮守美奈(明石乗馬協会/コカ・コーラボトラーズジャパンベネフィット)&ジアーナ号が、エントリーした2種目ともに高得点率をマークし、存在感を見せた。

63歳・宮路、コロナ禍と骨折乗り越え東京パラを目指す

リオパラリンピック日本代表でグレードⅡの宮路満英(リファイン・エクインアカデミー)&オロバス号は、最終日のフリースタイルテストで馬が音楽に反応して興奮してしまい、得点率を伸ばせなかった。今年3月のオランダでの強化合宿から帰国後、新型コロナウイルスの影響で国内はもちろん、海外の馬の騎乗練習ができなかった宮路。ようやく練習を再開した8月には、オロバス号から落馬して腰椎を骨折。不運に見舞われたが、不屈の精神で9月下旬に再び乗り始め、今大会に向けて短期集中で調整を図ってきた。それだけに、この日のパフォーマンスは「まったくダメ」と悔しがるが、規定演技では優勝するなどその実力を発揮した。

宮路はコマンダーを務める裕美子さんと夫婦二人三脚で東京を目指す

JRAで調教助手をしていた2005年に脳卒中で倒れ、右半身麻痺と高次脳機能障がいの後遺症が残る宮路。妻の裕美子さんが声でコースを知らせるコマンダーとしてサポートするなど、二人三脚で競技に取り組んでおり、東京パラリンピックに向けて「もっと良くなるように頑張る」と意欲を示した。

そのフリースタイルテストは60歳の大川順一郎(蒜山ホースパーク/鳥取大乾燥地研究センター)&童夢号が優美な演技を披露し、得点率63.122をマーク。強化指定選手の宮路と吉越奏詞(四街道グリーンヒル乗馬クラブ)を抑え、制した。

グレードⅢは稲葉将(静岡乗馬クラブ/シンプレクス)&カサノバ号が3種目とも高得点率を記録し、優勝した。


選手から好評、「馬場も厩舎も素晴らしい会場」

東京2020パラリンピックの競技会場となる馬事公苑

今大会は東京2020パラリンピックの本番会場となる馬事公苑で開かれた。初めて馬場の感触を確かめた稲葉は、「とてもグリップ力のある砂。馬が躓いてしまう場面もあったので対応できるようにしたい」と話し、吉越は「厩舎の馬房に餌を吊るす設備なども整っていて、素晴らしいところだと感じた。馬場も観客席のスタンドが光ったりせず走りやすかった」と感想を述べた。また、経験豊富な宮路も「調教師時代からヨーロッパのいろんな会場を見ているけれど、これほど良いところは他にない」と感嘆したようすだった。

東京大会では日本に「4枠」が開催国として割り当てられているが、新型コロナウイルスの影響で代表選考は中断しており、今後の選考会の開催も未定の状況だ。28日に会見を開いた日本障がい者乗馬協会の三木則夫パラ馬術強化委員長は、「(人馬セットで出場条件を満たしている)今年度の強化指定選手5人の中から代表選手を選ぶ可能性が高い」と話し、来年4月ごろには決定する見込みであることを明かした。

(MA SPORTS)