パラスポーツ最高峰を目指す姿を追いかける最前線レポート--Next Stage--企画・取材:MA SPORTS

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2021年9月10日

東京2020パラリンピック競技大会

“多様性と調和”を体現した東京2020パラリンピック

難民選手団を含む162の国・地域が参加した東京2020パラリンピック競技大会は、8月24日の開会式から13日間にわたり熱戦を繰り広げ、9月5日に幕を閉じた。新型コロナウイルスの感染拡大が収まらず、緊急事態宣言下での開催は原則無観客となったが、日本選手団は全22競技のうち12競技で金13、銀15、銅23の計51個のメダルを獲得した。

競技初日の8月25日、50m平泳ぎ(SB3)で銅メダルを獲得した鈴木孝幸。全種目メダル獲得の快進撃は、ここから始まった

水泳・鈴木孝幸は出場5種目すべてメダルを獲得

日本選手団の躍進は、大会初日に14歳の水泳・山田美幸(WS新潟)による女子100m背泳ぎ(S2)の銀メダルで始まった。水泳は、パラリンピック5大会目の鈴木孝幸(ゴールドウイン)が100m自由形(S4)の金メダルを含む、出場5種目すべてでメダルを獲得し、チームをけん引。山口尚秀(四国ガス)は、男子100m平泳ぎ(SB14)で自身の持つ世界記録を0秒23更新して金メダル。また、男子100mバタフライ(S11)では、エース・木村敬一(東京ガス)が悲願の金メダルを獲得。富田宇宙(日体大院)も2位でゴールし、ワンツーフィニッシュの快挙を成し遂げた。

陸上では、佐藤友祈(モリサワ)が400m、1500m(T52)の2種目を制覇。大会直前のクラス分けで障害がより軽いT53でのエントリーとなった伊藤智也(バイエル薬品)は、400mで予選6位ながら自己記録を更新してみせた。初種目のユニバーサルリレーは、繰り上げで銅メダル。マラソンはリオ大会銀の女子T12の道下美里(三井住友海上)が金メダル、男子T12の堀越信司(NTT西日本)とT46の永田務(新潟県身体障害者団体連合会)が、それぞれ銅メダルを獲得した。

今大会、日本最年長の金メダリストとなったのは、自転車競技に出場した50歳、杉浦佳子(楽天ソシオビジネス)。個人タイムトライアルに続き、ロードレース(運動機能障害C1~3)を制し、ロード二冠を達成した。初出場のトライアスロン男子PTS4の宇田秀生(NTT東日本・NTT西日本)は、得意のランで追い上げ涙の銀メダルを手に入れた。

前回リオ大会で混合チームBC1/BC2で銀メダルを獲得したボッチャは、混合個人BC2で杉村英孝(伊豆介護センター)が金、混合ペアBC3で銀、混合チームBC1/BC2で銅と、強化の成果を発揮した。ゴールボール女子は、初戦を落とし苦しいスタートとなったが、その後奮起して3位に。2大会ぶりに表彰台に立った。男子は開催国枠で初出場ながら5位と奮闘。予選リーグは首位通過し、前回王者のリトアニアや銀メダルのアメリカを破るなど、快進撃を見せた。

悲願のメダルを獲得し、笑顔で集合写真におさまる車いすバスケットボール男子日本代表のメンバーら

車いすバスケットボール男子が初の銀メダルを獲得!

車いすバスケットボール男子は強豪チームを次々と撃破し、決勝まで上り詰めた。その決勝では前回金メダルのアメリカと最後まで競り合い、4点差で敗れたものの、日本史上初の銀メダルを獲得。パラリンピックの歴史に名を刻んだ。女子は6位だった。また、車いすラグビーは予選全勝で決勝トーナメントへ。準決勝でイギリスに屈したが、3位決定戦で前回王者・オーストラリアを退けて2大会連続で銅メダルを獲得。最後は笑顔で大会を終えた。

日本選手団主将の国枝慎吾(ユニクロ)は、車いすテニス男子シングルスで初戦から決勝まで1セットも落とさず勝ち上がり、2大会ぶりとなる“涙の復活”金メダルを獲得。女子シングルスでは上地結衣(三井住友銀行)が銀、女子ダブルスでは上地/大谷桃子(かんぽ生命保険)組が銅、クアードダブルス3位決定戦では諸石光照(EY JAPAN)/菅野浩二(リクルート)組が深夜の激闘を制し、日本クアード界初のメダルをもたらした。

今大会からの新競技、パラバドミントンは金3、銀1、銅5個を獲得。女子車いすWH1の里見紗李奈(NTT都市開発)はシングルス、山崎悠麻(同)と組んだ女子ダブルスを制して二冠。男子車いすWH2の梶原大暉(日体大)は、シングルスで世界ランク1位の韓国人選手を破って、堂々金メダルを獲得した。同じく新競技のテコンドーは、健闘するもメダルには届かず。初出場を果たした5人制サッカー(ブラインドサッカー)は強豪相手に一丸となったパフォーマンスを披露。準決勝進出は逃したが、順位決定戦で勝利して、5位で大会を終えた。

次回はフランス・パリで開催される。閉会式では、東京都の小池百合子知事からパリのアンヌ・イダルゴ市長にパラリンピック旗が引き継がれた

パラスポーツのさらなる発展を願って

今大会は「学校連携観戦プログラム」が希望者のみで実施されたが、多くの観客は会場で彼らの勇姿を直接目にすることはできなかった。だが、選手たちはテレビ放送やオンライン配信等を通して、今大会のコンセプトである“多様性と調和”をオリンピック以上に体現。初めて観戦した人にもパラ競技が純粋に面白いスポーツであり、選手たちが正真正銘のアスリートであることを社会に証明する大会となった。

閉会式から一夜明けた6日、日本選手団の団旗返還式が都内で開かれた。副主将のゴールボール女子の浦田理恵(総合メディカル)介添えのもと、旗手を務めた卓球男子の岩渕幸洋(協和キリン)とトライアスロン女子の谷真海(サントリー)から河合純一団長を経て、鳥原光憲会長に団旗が返還された。

河合団長は会見で、「一年延期という前例のないなか、厳しい行動管理や苦しい調整を経て選手が輝いた13日間だった。『越えろ、みんなで。』というチームスローガンのもと、見えない壁や限界を超えることができた」と総括した。また、「聖火は静かに消えたが、選手のパフォーマンスやメッセージは国民の心に新たな炎を燃やし始めている。東京大会の貴重でかけがえのない経験を、どうか語り継いでいってもらいたい。それが教育につながり、レガシーになっていくと信じている」と語り、パラスポーツのさらなる発展を願った。

(MA SPORTS)