パラスポーツ最高峰を目指す姿を追いかける最前線レポート--Next Stage--企画・取材:MA SPORTS

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2023年3月8日

2023日本パラ水泳春季チャレンジレース

世界選手権の日本代表選手が決定

2023年度の日本代表選手を選考する「2023日本パラ水泳春季チャレンジレース」が4日から2日間にわたり、静岡県富士水泳場で行われた。7月31日に開幕する「マンチェスター2023WPS世界選手権大会」の日本代表選手選考を兼ねており、派遣基準記録を突破した肢体不自由・視覚障がいクラスの16人(保留選手2人)、知的障がいクラスの4人(保留選手2人)が日本代表に決まった。

男子平泳ぎ100m(SB14)で自身が持つ世界記録を更新する泳ぎを見せた山口

山口が圧巻の泳ぎで世界記録を更新

2日間でもっとも会場を沸かせたのは、知的障がいクラスの山口尚秀(四国ガス)だ。男子100m平泳ぎ(SB14)ではスタートから抜け出し、自らの世界記録を0秒99更新する1分2秒75で圧勝。「2秒台を出せた。さらなる一歩の進歩を実感した」と、自信をのぞかせた。山口は他2種目でも世界選手権出場切符を手にした。村上舜也(NECGSC)は同100mバタフライ(S14)で派遣基準記録をクリアした。

女子は、芹澤美希香(宮前ドルフィン)が女子100m平泳ぎ(SB14)で1分17秒54の日本新記録をマーク。「世界選手権では決勝に進んでベストを更新したい」と、意気込みを語る。また、スポーツ庁によるアスリート発掘事業「J-STARプロジェクト」5期生の木下あいら(個人)は、同100mバタフライ(S14)をはじめ、4種目で派遣基準記録を突破した。

男子はライバル対決が活性化

ゴール後に笑顔を見せる日向(左)と田中=写真は男子50m背泳ぎ(S5)

今大会は、ライバル対決にも注目が集まった。男子50mバタフライ(S5)は、日向楓(宮前ドルフィン)が田中映伍(個人)に0.53秒差で競り勝った。両選手とも先天性の両上肢欠損で、ほぼ足の力のみで泳ぐスタイル。これまで切磋琢磨しながら記録を伸ばしてきた仲で、日向は「田中選手も一緒に派遣基準記録を切れてよかった」と語った。

同100m背泳ぎ(S8)は、窪田幸太(NTTファイナンス)が日本新記録の1分5秒56で制した。昨年6月に荻原虎太郎(セントラルスポーツ)が背泳ぎでバタフライのキックを入れて泳いでいるのを見て、自分も取り入れたという窪田。狙っていた6秒台を上回り、「新たな泳法に手ごたえを感じている」と語る。一方、派遣基準記録は突破したものの、自己ベストから3秒近くタイムを落とした荻原は、「どん底」から気持ちを切り替え、翌日の同200m個人メドレー(SM8)では2分31秒64の日本新記録を樹立。「世界選手権では窪田選手に勝ちたい」と、リベンジを誓った。

また、南井瑛翔(近畿大)が同200m個人メドレー(SM10)で2分22秒15のアジア新記録を樹立。南井は「苦手な背泳ぎと平泳ぎを専門とする大学の同期たちに教わった。それがタイムにつながったと思う」と振り返った。東京2020パラリンピックで5個のメダルを獲得した鈴木孝幸(GOLDWIN)は、自由形2種目(S 4)で派遣基準記録を突破した。

視覚障がいクラスは、木村敬一(東京ガス)が同50m自由形と同100mバタフライ(いずれもS11)で派遣基準記録をクリア。富田宇宙(EY Japan)は、同200m個人メドレー(SM11)でも代表権を獲得した。齋藤元希(国士舘大PST)は同400m自由形(S13)で世界選手権の出場を決めた。

福田がアジア新、由井は4種目で派遣基準記録を突破

女子100m平泳ぎ(SB8)では福田がアジア新記録をマークした

女子は、高校1年の福田果音(KSGときわ曽根)が女子100m平泳ぎ(SB8)を1分25秒55で泳ぎ、9月のジャパンパラ競技大会でマークしたアジア記録を塗り替えた。冬場の合宿で平泳ぎを強化してきたという福田は、「自己ベストが出て満足している。世界選手権では1分24秒台を出したい」と話した。隣のレーンで泳いだ宇津木美都(大阪体育大)も派遣基準記録を突破した。

由井真緒里(上武大)は日本記録を更新した同100m平泳ぎ(SB5)を含め、4種目で派遣基準記録を切るなど存在感を発揮。西田杏(シロ)は、得意種目の同50mバタフライ(S7)で37秒92をマークし、世界選手権代表に決まった。

視覚障がいクラスでは、S11の石浦智美(伊藤忠丸紅鉄鋼)とS13の辻内彩野(三菱商事)がそれぞれ同50m自由形で、また小野智華子(あいおいニッセイ)が同100m背泳ぎ(S11)で派遣基準記録を突破した。

なお、健常者の競泳界で活躍する石原愛依(神奈川大)が、パラ水泳デビューを果たした。同100m 平泳ぎ(SB13)を日本新記録で制し、同200m 個⼈メドレー(SM13)は世界記録より6秒以上速い2分15秒00で泳いだ。2021年の秋に視野が狭くなる病を発症し、今年、国内のパラ水泳のクラス認定を受けたばかり。まだ国際大会の出場に必要なクラス分けを受けていないため日本新記録として登録され、世界選手権は保留選手となっている。健常者のレースとパラ水泳の両立に挑戦するという石原は、「どちらも自分の泳ぎをするだけ。自己ベストを乗り越えていきたい」と力強く話し、前を向いた。

また、今大会は10月の「杭州2022アジアパラ競技大会」の日本代表推薦候補選手の選考も兼ねており、身体障がい・視覚障がいクラスは計32人、知的障がいクラスは計12人(保留選手3人)が決定した。

(MA SPORTS)