パラスポーツ最高峰を目指す姿を追いかける最前線レポート--Next Stage--企画・取材:MA SPORTS

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2024年7月1日

第102回全日本ローイング選手権大会

パラの競技種目初採用、全日本に新たな歴史!

ローイングの種目別日本一を決める「第102回全日本ローイング選手権大会」が6月20日から4日間にわたり、東京都の海の森水上競技場で開かれた。今年からパラローイングの競技種目が正式に採用され、新たな歴史を刻んだ。パラローイングは22日に予備レース、23日にA決勝が行われた。

力強い漕ぎでPR1男子シングルスカルを制した森

パリパラ代表の森が全日本初代王者に

注目を集めたのは、PR1男子シングルスカルだ。パリ2024パラリンピック日本代表に内定している森卓也(CHAXパラアスリートチーム)と、パラ陸上の短距離から転向した百武強士(唐津ボートクラブ)の2艇が競い、森が終始安定した漕ぎで10分14秒66で制した。全日本の初代チャンピオンになった森は、「たくさんの人にパラローイングを見てもらえて嬉しい」と、笑顔を見せた。

森は元パラ陸上選手で、砲丸投と円盤投(F55)の日本記録保持者だ。練習中に右肩を怪我した影響で東京2020パラリンピック出場を断念。手術を経て、その後ローイングに転向した。今年4月のアジア・オセアニア大陸予選で繰り上がりで1位になり、パリ大会の出場権を獲得した。今大会は、そのパリ大会前の最後の公式戦。「丁寧に漕いでどのくらいの速度が出るか試したかった。想定よりもスピードが出ていたので、そこは自信になった」と振り返った。また、パリ大会のローイング会場について、「少し荒れるコースだと聞いている。練習拠点の米子のコースも午後からは荒れるし、あえてコンディションの悪い場所を選んで練習を積むこともできる。番狂わせを起こしたい」と、力強く語った。

2位の百武は競技を始めて1年余りで、公式戦デビューを果たした。予備レース、A決勝とも1着の森から離されたが、最後まで力を出し切り、「ものすごく緊張したけれど、楽しめた」と語った。選手発掘事業のJ-STARプロジェクトを昨年修了し、現在は佐賀県で練習に励む。生まれつき両脚がなく、ボート上では上体の動きを支えるため義足を着用している。目標は、4年後のロス2028パラリンピックの出場だ。「僕と同じように陸上からローイングに転向した森選手がパリ大会に出場する。自分のことのように嬉しいし、その姿に大きな力をもらっている。自分も頑張りたい」と話し、前を向いた。

東京パラ代表の有安と西岡は、会場の声援に万感の思い

PR1男子シングルスカルで優勝した森と2位の百武(左)。表彰式では笑顔を見せた

非パラ種目で、視覚障がいと上下肢障がいの選手によるPR3男子ペアは、有安諒平・西岡利拡組(太田川BC)が優勝した。2人がペアを組むのは2年ぶりだが、互いの漕ぎを熟知していることから、有安は「崩れても調整や修正ができるアドバンテージがあった」と話し、西岡も「最後まで攻めることができた」と、手ごたえを語った。

今大会は多くの観客が会場につめかけ、全日本では初めて正式に実施されたパラのレースにも大きな声援を送っていた。無観客試合だった東京2020大会ではPR3混合舵手つきフォアに出場した有安と西岡は、「会場の声援を力に変えられた」(有安)、「大勢のお客さんから名前を呼んでもらい、漕ぎ手として励みになった」(西岡)と語り、笑顔を見せていた。

2位は坂口宥太・佐野靖典組(戸田中央総合病院RC)だった。4月にペアを組むことが決まり、東京拠点の坂口が佐野が活動する岐阜に行って練習を積むなどして、約2カ月で仕上げてきた。佐野は今大会が初の公式戦で、ペアで2000mのレースに挑むのも初めて。佐野は「ここに至るまではかなり不安があった」と打ち明けるが、予備レース、A決勝とも漕歴のある坂口がアドバイスを送りながら二人のペースを作りあげ、最後まで漕ぎ切った。

アジアパラ代表の髙野は「ロスに向けていいスタートが切れた」

PR3男子ペアは有安(右)・西岡組が制した

今大会は、混合ダブルスカルも行われた。本来、混合ダブルスカル(PR2)はパラ種目で、下肢障がいの男女1人ずつがペアになりレースを行うが、今回は女子が視覚障がいの髙野紋子、男子が健常者の野本耕司(宮島RC)のペアで出場することになったため、エキシビションとして実施された。初日は予備レースのPR3男子ペアと同時にスタートし、競い合いながらゴール。2日目は一艇だけのレースとなったが、方向や距離が見えづらい髙野に野本が積極的に声かけをし、レースを組み立てた。

髙野は杭州アジアパラ競技大会の日本代表クルーに選ばれ、PR3混合舵手つきフォアに出場。パリ大会の出場を目指していたが、選考会では惜しくも派遣基準タイムを突破できなかった。悔しさを抱えながらも、「すでに気持ちを切り替えている」と高野。「ロスに向けて心機一転で迎えた最初のレースが、この全日本。違う種目のエキシビションだったけれど、いいスタートが切れた」と、充実した表情で話した。

(MA SPORTS)