第37回全日本パラスポーツライフル射撃競技選手権大会
静寂の中で日本一を決める熱い戦い
「第37回全日本パラスポーツライフル射撃競技選手権大会」が11月15日から3日間にわたり、栃木県ライフル射撃場で開かれた。全種目個人戦で実施され、パリ2024パラリンピック競技大会(以下、パリ2024大会)に出場したトップ選手のほか、次世代選手も上位に入る活躍を見せた。
パリ2024大会メダリストの水田が混合10mエアライフル伏射(SH2)R5を制した
パリ2024大会銅メダリストの水田が存在感
混合10mエアライフル伏射(SH2)R5は8人がエントリー。パリ2024大会の同種目で銅メダルを獲得した水田光夏(白寿生科学研究所)が本戦でトップとなる636.3点で突破すると、ファイナルでも抜群の安定感を発揮し、連覇を達成した。ファイナルは第一ステージと第二ステージに分かれ、第二ステージは12発目を撃ち終えた時点で最下位の選手が決まり、そこから点数の低い選手が一人ずつ競技を終えていくルールだ。試合が進むにつれて緊張感が高まるなか、水田は1発ごとに高い集中力を見せて最後まで残り、急成長中の金尾克(YKKライフル射撃部)との接戦を制した。
パリ2024大会では、選手の代わりに弾をこめるローダーを希望し、自身は撃つことだけに専心できたが、国内の大会では認められていない。「今大会前の練習で久しぶりに自分で弾を入れてみると、うまくできなくて……。ファイナルはより短い時間で撃たなければいけないので、そこをひたすら練習した」と振り返る。
本戦の試射で低得点を出し、「ここ最近で一番不安なスタートだった」という水田。「気持ちを引きずらずに臨めたけれど、点数に波があった」と反省を口にする。それでもファイナルではしっかりと修正し、高得点を連発。「ずっと制している全日本を連覇できてよかった」と、笑顔を見せた。
水田、金尾に続き、前回6位の坂本優二(日販テクシード)が3位に躍進。パリ2024大会日本代表の瀬賀亜希子(埼玉県身体障害者ライフル射撃連盟)は4位だったが、第二ステージでベストショットを連発するなど存在感を放った。
ロスを見据える成長株・金尾が好成績
競技を始めて2年で急成長を遂げる金尾。「射撃に出会えてラッキーだ」と語る
同種目準優勝の金尾は、ファイナルで水田と接戦を演じた。23発目で水田とともに10.7点をマークすると、最終弾の24発目は水田の10.8点を上回る、10.9点の満点をたたき出した。逆転はならなかったものの、昨年の3位から順位を上げた。
金尾は2003年にオートバイ事故で右腕を切断。2022年7月に射撃を始めるとめきめきと頭角を現し、2023年のワールドカップ(W杯)の混合エアライフル伏射(SH2)R5団体戦で日本代表に選出。水田、瀬賀とともに出場し、銅メダルを獲得した。今年のW杯個人戦でも自身初のファイナル進出を決め、7位の成績をおさめるなど、今後のさらなる活躍が期待される選手だ。自宅でもスキャットと呼ばれる機械を使い、パソコン上に仮想の標的を作り出してトレーニングに励んできた。トリガーを引いた時の癖などが可視化されることで自身の射撃を分析でき、それが安定したパフォーマンスにつながっているという。
パリ2024大会で水田の銅メダル獲得はテレビで見守った。「本当に興奮した。水田選手が日本人でもメダルが獲れることを証明してくれたし、自分もその可能性を感じることができた。僕も4年後のロサンゼルスで行われるLA2028大会には絶対に出たいので、この刺激を胸に、頑張りたい」と力強く語った。なお、金尾は混合10mエアライフル立射(SH2)R4で優勝を果たした。
J-STARプロジェクト生の辻尾が優勝
混合10mエアライフル伏射(SH1)R3で優勝したJ-STARプロジェクト6期生の辻尾
混合10mエアライフル伏射(SH1)R3は、辻尾玲奈(辻尾税理士事務所)が630.5点を記録。昨年の5位から順位を上げ、1位に立った。「全日本で630点を追える点を出すことが目標だった。トレーニングの成果が出せた」と喜んだ。
2020年4月に交通事故により両下肢に麻痺が残り、車いす生活に。2023年に「J-STARプロジェクト」6期生として選抜されたことから射撃を始め、フルタイムで仕事をしながら地道に練習を積み重ねてきた。金尾と同様に、今夏のパリ2024大会で水田のメダル獲得に刺激を受けたという辻尾。「競技を始めてまだ1年半くらいだけど、手の届かない世界というよりも『いつか自分も立つところだな』と思えた。次のLA2028大会までは3年半あるので、もっと技術に磨きをかけていきたい」と、言葉に力を込めた。
パリ2024大会日本代表の岡田和也(サイオネス・ヘルス・コマーシャル)は、1発目で9.9点を出すなどミスがあり出遅れるが、その後は立て直して628.8点で2位に入った。パリ2024大会の帰国から1週間後には次戦に向けて実射練習を再開したという岡田。今大会の前週には愛知県ライフル射撃選手権大会に出場し、635.1点で優勝を飾った。日本パラ射撃連盟が定める強化指定選手のランクA選考規定の635.2点に迫る高得点で、「自信になった」と語る。2年後には、活動拠点とする愛知県で愛知・名古屋2026アジアパラ競技大会が開かれる。「ここでしっかりと成績を残し、4年後のパラリンピックにつなげたい」と話し、前を向いた。また、岡田は混合50mライフル伏射(SH1)R6を制した。
9人がエントリーした男女混合のオリパラ共生種目の10mエアピストル(SH1)P1/P2では、健常の選手に次いで齋藤康弘(神奈川県庁)が2位に入る活躍を見せた。
(MA SPORTS)