第21回日本デフ陸上競技選手権大会
国内外のトップクラスのデフアスリートが集結!
聴覚障がいのアスリートが競う「第21回日本デフ陸上競技選手権大会」が11月29日から3日間にわたり、大井ふ頭中央海浜公園スポーツの森陸上競技場と駒沢オリンピック公園総合運動場陸上競技場で開かれた。「第2回世界デフ国別・地域別対抗陸上競技選手権大会」 と「第4回日本デフジュニア・ユース陸上競技選手権大会」も同時開催され、3大会に11カ国・地域から約170人が参加した。
来年の東京2025デフリンピックでも活躍が期待される佐々木
男子短距離は実力派スプリンターが勢ぞろい
男子の短距離種目には多くの実力者がエントリーした。来年の第25回夏季デフリンピック競技大会 東京2025(以下、東京2025デフリンピック)の男子100mで連覇を目指す佐々木琢磨(仙台大学TC)は、世界デフ国別・地域別対抗陸上競技選手権大会の同種目を10秒73で走り、頂点に立った。5位だった7月の世界選手権以降、課題とした後半の減速を防ぐトレーニングに注力してきたといい、「成果が出た」と笑顔を見せた。また、男子200mは山田真樹(渕上ファインズ)が前回ブラジルで開催の第24回夏季デフリンピック競技大会(以下、カシアス・ド・スル2022デフリンピック)金メダリストのメレンシアーノ・クリストファー(ドミニカ)と競り合うも、わずかに届かず22秒84で2着だった。食事管理が課題で、現在はベスト体重から6キロ少ない64キロに。「パワーがある走りができなかった。今回、体重の重要さを再確認できた。来年に向けて切り替えてトレーニングしていきたい」と話し、2大会ぶりとなるデフリンピックの金メダル獲得に意欲を見せていた。
日本選手権の男子100mは、世界選手権8位の坂田翔悟(セレスポ)が11秒04、同200mは佐々木が22秒31で制した。同400mは、足立祥史(Mix TC)がスタートの勢いを後半になってもキープし、世界選手権2位の山田、8位の山本剛士(コカ・コーラ)を抑えて初優勝を果たした。100m、200mを得意とし、世界選手権はリレーメンバーだった足立。レース後は、「400mで自分が優勝するなんてちょっと信じられない」と驚きつつも、「どの種目も走れるように練習を積んできた。東京2025デフリンピックは個人種目でも出場したい」と力強く語った。
男子400mHは石本が初優勝、ハンマー投最強トリオも存在感
男子400mハードルで競う高田(左)と石本
男子110mハードルは高田裕士(神奈川陸協)が優勝。同400mハードルは、19歳の新星・石本龍一朗(岡山大学)が56秒45の大会新記録で制した。レースは高田が先行するが、6台目で高田を捕らえた石本が逆転し、後半も加速。最後の直線でもスピードを維持して大差をつけてゴールした。中学で陸上をスタートし、高校2年から400mハードルを始めた。一般の大会に出場するなか、デフリンピックの東京開催と自己ベストが日本記録を上回っていることを知り、「ジャパンのジャージを着てみたい。コミュニティーも広がりそう」と、今年に入ってデフ陸上への参加を決意。今大会が初めての公式戦だった。「デフリンピック出場が目標。次は日本記録を更新して出場を決めたい」と、言葉に力を込めた。
男子ハンマー投は、大学3年の遠山莉生(筑波大)が56m64で優勝。世界記録保持者の森本真敏(日神不動産)は2位に入った。前回のカシアス・ド・スル2022デフリンピックで金メダルを獲得した石田考正(愛知陸協)は世界デフ国別・地域別対抗陸上競技選手権大会にエントリーし、55m32を記録した。世界選手権では、石田が金、森本が銀、遠山が銅メダルを獲得。来年の東京2025デフリンピックでは、3人ともが「世界記録更新」を目標に据える。最強トリオのさらなる熱き戦いから、目が離せない。
また、男子十種競技は岡部祐介(ライフネット)が5105点のシーズンベストをマーク、同走高跳は世界選手権5位の佐藤秀祐(平林金属陸上部)が1m95を跳び、それぞれ大会新記録を樹立した。長距離では、佐々木昴(広島経済大)が同5000mを15分16秒06、同10000mを31分38秒67で走り、2種目で大会記録を更新する活躍をみせた。
女子棒高跳は末吉が世界記録を超える大跳躍!
女子棒高跳の末吉は観客が見守るなか、素晴らしい跳躍を披露した
女子棒高跳では、今年4月に日本新記録となる3m40を跳んだ末吉凪(明治国際医療大)が圧巻のパフォーマンスを披露した。まずは3m41に成功して早々に日本記録を更新すると、世界記録を5センチ上回る3m50に2本目で成功。さらに3m60に挑戦し、1本目で美しくクリアしてみせた。続く3m70は疲労もあり惜しくも失敗したが、大記録の誕生に会場中が沸いた。末吉は「練習では3m60を超えていたので、もしかしたら跳べるかなと思っていた。めちゃめちゃ嬉しい」と振り返り、笑顔がはじけた。
カシアス・ド・スル2022デフリンピックでは銅メダルを獲得した末吉。実はこの時、優勝したフランスの選手が4mを跳んでいるが、世界記録には公認されていない状況だという。そのため、「実際に4mを跳んでいる選手がいるのに、それより低い高さが世界記録になるのは、正直複雑な気持ち」としつつも、「来年の東京2025デフリンピックでは1番を目指したい」と力強く話し、前を向いた。
また、カシアス・ド・スル2022デフリンピック、世界選手権ともに、女子1500mで銅メダルを獲得した岡田海緒(MURC)は、同種目で4分48秒43の大会新記録をマークして優勝。同800mも1着でゴールした。女子やり投は、世界選手権5位の川口穂菜美(横浜市陸協)が36m01で優勝した。
(MA SPORTS)