東京2020パラリンピック競技大会にて、ロードレースおよびタイムトライアルの2種目で金メダルを獲得した杉浦佳子選手(自転車競技)が9月4日、記者会見に出席し、心境を語りました。
Q:メダルを獲得されて改めてのご感想をいただきます。
コロナ禍で大変なご時世のなか、パラリンピック開催にあたりご尽力いただいた方々にまずは御礼申し上げます。本当にありがとうございました。
そして、ここに至るまでの道のりは長くて険しくて、とても一人では乗り越えられなかったと思います。ここまで導いてくださった方々、応援してくださった方々、その皆さんのおかげでメダルを獲得することができました。とても重いメダルでした。みんなに感謝を伝えたいなと思っています。
Q:2つの金メダル獲得というのは、日本のパラサイクリング界において非常に影響力が高いと思っています。金メダルの価値をどのように受け止めていらっしゃいますか。
正直、今はまったく、この重みしか感じられないというか。ここからじわじわと、その価値がわかるのではないかと思っております。
Q:数多くの祝福のメッセージをもらったと思いますが、そのなかで特に心に響いたものは何でしょうか。
苦しいときに一番支えてくれたコーチの「よくやった」という言葉です。
Q:ここまでいろいろなことを頑張ってこられたと思うんですけれども、一番ここは頑張ったというのは何でしょうか。
自分が頑張ったかどうかはあまりわからないので、コーチに言われたことを一つ一つこなせたことです。今、パーソナルでトラックを教えてくださるコーチと、ロードを見てくださっているコーチと、日常のプライベートを見てくださるコーチと、3人ついていまして、そのコーチたちに「頑張った」と言われたら、それが一番頑張ったことだなと思います。
Q:子どもたちや若い世代に向けて、この競技のおもしろさ・楽しさを改めて教えてください。
特にパラリンピックにおいては、初日にタイムトライアルという一人一人が走るレースがありまして、そこでは本当に力のある選手が勝つんですけれども、それを見たうえで戦略を考えて、ロードレースのスタート地点に立つんですね。そこで他の選手の弱いところで自分の強みはどう生かせるかとか、チームメイトがいればチームメイトと計画してどちらかがおとりになって自分の味方を勝たせるとか、そういう展開によって勝利する可能性が高まるので、そういうところも観ていただけるとおもしろいでしょうし、ある意味、どういう人でも勝てる可能性があるスポーツなので、本当にいろいろな方にチャレンジしていただきたいです。
Q:自身のここだけは他の人に負けないという強みを改めて教えてください。
今回、ロードレースに関してはまず国内であったことで、何度も走ることによって道の特性を理解できたりですとか、例えば暑い日の練習、寒い日の練習、雨が降ったときの練習も、公道部分は何度も練習できたのはよかったなと思います。
自分の強みでもあるけれども弱みでもある、身体が小さいということですね。パワーは出にくいんですが、逆に坂だと軽い分、他の人よりもパワーがなくても不負荷がかからない分速くのぼれるというのは強みでもあったので、このコースが、後半上り坂が多かったというのが勝因だったかなと思います。コースのレイアウトが自分にはすごく向いていました。
Q:スポーツの大会において50歳の方が世界一になるというのはめったにないことだと思います。世界一になるために競技をするわけではないですが、同世代もしくはもっと高齢の方にもとても勇気を与えるような結果だったと思います。改めて、ご自身がこの年齢で世界一になったということの感想をお聞きしたいです。
確かに、若い人を育てる手法ですとかエビデンスですとか、そういったものはたくさん世に出回っていると思うのですが、この世代の練習メソッドはあまり事例がなくて、手探りでコーチたちが私の体調を見ながら考えてくださったこと。それが一番大きかったと思います。
年齢が高い方、若くても運動が苦手な方もいらっしゃると思うんですけれども、そういう方でも教え方によってすごく伸びる可能性があるというのを示せたかなと思っています。運動が苦手な人こそ、こういう風に練習すると速くなるとか、こういう練習方法で楽しくなるというのを広められたらいいかなと思っております。今、「だんだん体力も衰えてきたし」とか「運動苦手だし」って思っている人がいたら、ぜひ希望を持っていただきたいなと思います。
Q:大会を終えた今、自分へのご褒美があれば教えていただけますか。もしコーチに自分からご褒美があるのであれば、どんなことでしょうか。今、食べたいものはありますか。
自分へのご褒美は、今ちょっと何も(思い浮かばない)。こういう結果になると思っていなかったので、ご褒美って何も考えていなくて。一番のご褒美は、もういただきました。本当にこんなに喜んでくれたコーチの顔は見たことがなかったので、それが私にとってのご褒美でした。
そしてコーチにはやっぱりこのメダルをかけてあげられたことがご褒美だったかなと思っています。
食べたい物は何だろう、身体に悪いものを食べたいです。それを言っちゃうと、その食べ物を批判することになるので具体的には言えませんが、今まで身体に悪いと言われていたものをあえて食べに行こうと思います。
Q:東京パラリンピックを契機にさらなるパラスポーツの普及・発展が大きな課題となりますが、杉浦選手はアスリートとして、また薬剤師としての立場からどのように取り組みたいとお考えでしょうか。
一度盲学校を訪問したときに、目の見えない子たちが初めて自転車にチャレンジするということで、タンデムに乗ったときの顔が本当にうれしそうで、それを忘れられない感じがして。全国の盲学校でタンデムに乗ってもらって、将来的にはタンデム甲子園みたいなことができたら、すごくおもしろいだろうなと思っています。
今大会のメダルにも点字が刻まれているんです。だから、目の見えない子も触って「これ金メダルだ」ってわかってもらえるメダルなので、各地回らせていただいて、みんなにメダルを触ってもらって、自転車を楽しんで、風を切って走るということをやってもらいたいなと思っています。
薬剤師としては、日本は平均寿命は世界一なんですが健康寿命から平均寿命までの時間が割と長くて、その期間ってやっぱりみなさん大変だったり苦しかったりすると思うんですね。その苦しい時間を短くさせるためにも、みんなでスポーツに取り組んで、自転車にも乗って。例えば移動が車ではなく自転車になれば二酸化炭素も減るでしょうし、健康的にも環境的にもいい。そういうことが何か広められたらいいなと思っています。